訪れた寺は境内で戦災孤児を養っていた。陛下は笑みをたたえ、子供たちに腰をかがめて会釈し、声を掛けて回られた。しかし、最後の部屋では身じろぎもせず、厳しい尊顔になる。一点を凝視しお尋ねになった。
「お父さん、お母さん?」
少女は2基の位牌を抱いていた。少女は「はい」と答えた。陛下は「どこで?」と、たたみ掛けられた。
「父は満ソ国境で名誉の戦死を。母は引き揚げ途中で病のために亡くなりました」
「お寂しい?」と質された。少女は語り始めた。
「いいえ、寂しいことはありません。私は仏の子です。仏の子はお父さんお母さんと、お浄土に行ったらきっとまた会うことができるのです。お父さんに、お母さんに会いたいと思うとき御仏様の前に座ります。そして、そっとお父さんの、そっとお母さんの名前を呼びます。すると、お父さんもお母さんも私の側にやってきて抱いてくれます。だから寂しいことはありません。私は仏の子です」
陛下は少女の頭を撫で「仏の子はお幸せね。立派に育っておくれよ」と仰せられた。見れば、陛下の涙が畳を濡らしている。少女は、小声で「お父さん」と囁いた。陛下は深く深くうなずかれた。
皇統を頂き、乃木や山川を輩出できる国柄。実に誇らしい。(政治部専門委員 野口裕之)