絵本の翻訳を多数手がける穂村弘さん。「ある翻訳家がおっしゃっていたのですが、翻訳は球体に光を当てるようなもの。どうしても影ができてしまう。すごく難しいですね」=2014年10月30日(塩塚夢撮影)【拡大】
とはいえ、原作は19世紀の韻文で、しかもキャロルは言葉遊びの達人だ。「それまでも『スナーク狩り』は読んだことがありましたが、正直よくわからなかった(笑)。ものすごく複雑で、技巧がたくさん凝らされている」
この“怪物”に挑むにあたり、一つの作戦を決めた。「この作品は既訳もありますが、原作の性格もあって、どうしても脚注が膨大になってしまう。脚注なしでも読めるような別の楽しみ方を提示したいと思った。何も知らない人が読んでも、日本語として楽しめるようには、どうしたらいいかと考えました」
遊びと謎に満ちた原作の韻文性を日本語に移し替える“武器”として選んだのは、日本の長歌形式だった。「五・七」のリズムを繰り返し、最後を「五・七・七」で終えるスタイルだ。「単純に僕が短歌をやってきたからということもありますが、長歌形式なら、黙読でもリズムを楽しめる」
指を折りながら、パズルのように言葉を組み合わせていった。たとえば、この通り。《スナークのいそうな場所だ!/もう一度繰り返したぞ 俺たちの胸に勇気を/スナークのいそうな場所だ!/もう一度繰り返したぞ 同じことを三度云ったら現実になる》