絵本の翻訳を多数手がける穂村弘さん。「ある翻訳家がおっしゃっていたのですが、翻訳は球体に光を当てるようなもの。どうしても影ができてしまう。すごく難しいですね」=2014年10月30日(塩塚夢撮影)【拡大】
「普通は言葉から映像を想像して読みますが、韻文はそれと同時に言葉そのものを読むもの。僕がここでやりたかったのも、そういうこと。言葉そのものの感触やリズムを手渡したい」
味わい深まる韻文
読んでいて純粋に「楽しい」と思えるのは、言葉そのものの鮮烈さゆえだ。
《「性質について云うならジャブジャブは/年中さかりがついている/服のセンスは滅茶苦茶で/千年先のファッションモデル》
「さかり、滅茶苦茶、千年先のファッションモデル…単語一つ一つの組み合わせがショートポエム。エンタメ的な読み方で完結してしまうと再読できないけれど、韻文は読み込むほどに味が深まる」
未知の怪物に向き合うようなスリリングさに満ちた本書。「私たちには普段自分たちのなじんでいる言語感覚以外のものを味わいたいという潜在的な欲求がある。『スナーク狩り』を長歌形式でやるというだけでも、想像つかないですよね。私自身もそんな不安と期待を味わいたい。今は、共感の方が求められがちですが、それは現状をただ守るだけ。驚異こそが、世界を反転させ、可能性を広げてくれる」