男性は、津滝(つたき)佳之さん(78)。頻繁に余震が続く中、家財道具を一心に運び出した。地震は自宅を奪い、将来への不安は尽きないが、かすかな望みをつないだという。「近隣住民のおかげです」。津滝さんはかみしめるように語った。
揺れが襲った22日夜、津滝さんはテレビを消して就寝しようとしていた。突き上げるような衝撃を受け、とっさにこたつの中に身を隠した。「ドン」と大きな音を聞き、身の危険を感じたため避難を決意。家が崩れる中、命からがら何とか外に飛び出した。
周囲を見回すと、家の中にいた娘や孫は確認できたが、1階で就寝中だった妻の君和(きみと)さん(73)の姿が見当たらない。名前を呼ぶと、家の中から振り絞るような声が聞こえた。「助けて…」
崩れた天井と床の数十センチの隙間に妻の姿が見えた。停電で暗闇に包まれる中、妻の名を叫ぶ津滝さんの声を聞きつけ、近隣住民十数人が駆けつけた。住民は車のジャッキを差し込み、力を合わせて救出を試みた。