「夜の木の下で」(湯本香樹実著/新潮社、1300円+税、提供写真)【拡大】
名付けられぬ関係が
現在はトロントで教鞭(きょうべん)を取る「私」が、病弱な双子の弟と過ごした秘密の場所へと思いをはせる「緑の洞窟」。ミッション系の女子高に通うユリが、生理用品を燃やす焼却炉の前で、同級生のカナと将来の夢や自身の家庭環境などを語り合う「焼却炉」。少年と不思議な女性との奇妙な友情を描いた「マジックフルート」。淡い、けれども鮮やかな思い出が美しい筆致で描かれる。
「どれも、名付けられない関係や感情です。『焼却炉』のユリとカナも特別な親友というわけではないけれど、その関係が確実に今の自分に影響を与えている。小さいけれど運命の別れ道です。そういうちょっとしたふれあいが、少しずつ導いていく感じ」
淡々とした日常の積み重ねだけではなく、自転車のサドルが話しかけてきたり(「私のサドル」)、非日常がごく自然に存在する作品も。「そうしたささいな非日常っていっぱいあるよね、という気持ちが私の中にある。少年少女のころ、自分の身近な持ち物に話しかけていたな、とか。これはこういうこと、とレッテル付けをしたくないんです」