ロンドンブリッジ近くに建設中のヨーロッパ最大の超高層ビル「ザ・シャード」。夜中の警備員が少なくなる時間を見計らって、彼らはそこに侵入を開始する。腹ばいの低い姿勢で警備員小屋の真後ろを通り過ぎ、中央階段に向かう。階段を一段とばしで急いで上がるが、相手は途方もなく高いビルだ。30階を過ぎると汗が止まらなくなり、50階に達する頃にはふくらはぎが悲鳴をあげる。70階までくるとセメントの階段が金属製に変わり頂上の到来を予感させた。建築途中の最突端、76階への登頂を成功させたギャレットはそこにあったクレーンの釣合錘によじ登った。あまりにも高所のため地上で動くものは何一つ見えないし、街の喧騒も聞こえない。そして、彼は街を走る光の線を水系のように感じ、ただただ風の音を聞くのだった。
「すべて探検しろ」
イギリスのケント州ロチェスターに打ち捨てられたソ連の潜水艦やサリー州の精神病院跡など、廃虚への潜入が多かったL.C.Cの黎明期を経て、彼らは都市部への興味を深めていった。巻末の「プレイス・ハッキング」の専門用語集に詳しくあるのだが、高度な潜入技術や調査、チームワークを必要とする最も困難で危険な侵入を「聖杯(holy grail)」と呼び、誰も見たことのない美的魅力のある場所を「叙事詩(epic)」と彼らは名付けた。