【本の話をしよう】
第二次世界大戦時、中国戦線でスパイとして活躍した憲兵・深谷義治さん(99)。敗戦後も極秘指令を受けて上海に13年間潜伏、その後中国当局によって逮捕され、想像を絶する拷問を受けながら20年4カ月もの間、獄中生活を送った。ノンフィクション『日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族』は、自身も差別や極貧に苦しんだ義治さんの次男・敏雄さん(66)が、父の獄中手記を織り交ぜながらつづった家族の物語だ。
戦時中、中国人になりすまして紙幣を偽造し国民党軍と共産党軍の経済に打撃を与えるなどの任務についていた義治さん。戦後も日本軍の円滑な撤退のため、国際法に反して任務遂行を命ぜられた。
戦時中に結婚した中国人女性との間に4人の子供に恵まれたが、1958年に逮捕。戦時中のスパイ行為は認めたものの、終戦後については完全黙秘を貫いた。「戦後のスパイ行為について認めれば、すぐに釈放されたはず。しかし黙秘を続けたのは、『国に国際法違反という汚名を着せまい』という軍人としての信念ゆえでした」と敏雄さんは父の心中をおもんぱかる。