とはいえ、6年にわたる執筆そのものも苦難の連続だった。敏雄さんは中国で生まれ育ち、日本に帰国したのは30歳のとき。日本語は完全とはいえない。「中国語で本を書いて人に翻訳してもらう」という方法もあったが、日本語教室に通ったり、日本生まれの一人娘・富美子さん(24)に添削してもらうなどして完成にこぎつけた。「あこがれてきた祖国に帰ってきた以上、日本人としての誇りを持ち、日本語で書くことしか考えていなかった」
完成した本を、義治さんの手に握らせた。「生きているうちに出版できてよかった」と敏雄さんは涙をぬぐう。
父を恨んだことはなかったのか-。敏雄さんはその質問に、きっぱりと答えた。「ありません。父は信念を貫いたサムライ。誇りに思います」(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
■ふかたに・としお 1948年、中国・上海生まれ。10歳で父の義治さんが逮捕される。78年に日本へ帰国。トラック運転手などで生計を立てながら日本語を勉強。本書が初めての著書。
「日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族」(深谷敏雄著/集英社、1800円+税)