【KEY BOOK】「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」(礒山雅著/講談社学術文庫、1188円)
ミュールハウゼン時代のオルガン、ワイマール時代のカンタータ、ケーテン時代のアンナ・マグダレーナとの出会い、ライプツィッヒ時代の「ヨハネ受難曲」の修辞学と、「マタイ」に寄せた慈愛の構想、晩年の数の神秘を加えた「音楽の捧げ物」や「フーガの技法」。これらを本気のエヴァンゲリストとして貫いたバッハの魂が、礒山の叙述によって蘇ってくる。最近のぼくは礒山の文章と、『バッハの風景』などの樋口隆一の文章を読むことが多い。
【KEY BOOK】「神こそわが王 精神史としてのバッハ」(丸山桂介著/春秋社、4320円)
丸山が気になるバッハを好きなように書いたのがいい。ゲマトリアと数秘術についても言及しているが、インヴェンチオの試みを捉えていくあたり、バッハの視覚性に迫っていくあたり、とくにおもしろい。表題の「神こそわが王」は初期のBWV71に「神はわが王」という注が書いてあることに発して、バッハが「永遠を模倣する時間」に挑み続けた形跡を追ったもので、まさにゲーテとシュペングラーの「大いなる数」を彷彿とさせた。