メキシコ湾に面したフロリダ半島北西部の町「クリスタルリバー」。早朝暗いうちに入り江へと静かにボートを出す。ウエットスーツに着替え、定刻の午前7時と同時に水温20度ほどの冷たい水へと入る。水中をのぞき込むと、褐色の水草に覆われた薄暗い水の底に、体長3メートルほどの丸々とした灰色の巨体が何体も横になっていた。絶滅危惧種として知られる海洋哺乳類のアメリカマナティーたちだ。寝ていても呼吸のため約15分に1回水面に顔を出すが、睡眠中にやってきた訪問客にはまったく興味なさそうに、再び水の底へと沈んでいった。
フロリダ半島からメキシコ湾、カリブ海にかけて生息するアメリカマナティー。人魚のモデルとも言われるが、体重は1トン近くにもなる丸い巨体とうちわのような尾びれ、シワシワの顔は愛嬌(あいきょう)たっぷり。沿岸部の浅瀬や河口などに生息し、水草のアマモやホテイアオイなど食べる草食性の哺乳類だ。
温かい海に住むマナティーたちは寒さにからきし弱い。太っているように見えるが厚い脂肪層はなく、水温が20度を下回ると弱って死に至ることもある。