【BOOKWARE】
時間と空間はつながっている、物質は場の曲率とともにある、量子の世界には自己同一性がない、宇宙は最初の3分間で誕生した、葉緑素と血液はほとんど同じ化学式でできている…。
若い頃のぼくを一変させた本はたくさんあるが、その多くはドストエフスキーやカフカのように「社会の矛盾」を問い、アンデルセンやJ・G・バラードのように「想像力の極み」に挑んだりしていた。ところが題名に惹かれて読んだジョージ・ガモフの『不思議の国のトムキンス』は様子がまったく違っていた。物理的な自然界に対する見方を一変させてくれたのだ。目の鱗がポロポロ落ちた。おまけにやたらに愉快だった。
しがない銀行員トムキンス氏が主人公である。ハリウッド映画がおもしろくないと思ってきたトムキンス氏は、もっと不思議なことが知りたくて某大学の物理の授業にもぐりこむ。けれども老教授が「この世界はな、湾曲しておって、かつ膨張しつつあるんじゃ」という第一声を発したとたん、何かがこんがらがって、気が付くと老教授とともに「朝も端もない宇宙の岩盤」の上にいたというふうに、奇妙奇天烈な話が始まるのである。