ガモフはシーンをつくるのがうまかった。ボールが拡がって進むビリヤードの部屋、疾走する自転車がだんだん縮んでいく呪いの町、数理の定数が狂ったレストラン…。これらは、ぼくが編集的世界観を形成するうえでの最も重要な光景をもたらしてくれる場面になった。ガモフは、科学の真髄とヴィジュアルイメージを結び付ける名人だったのだ。
とくに第6巻『1、2、3…無限大』は数学的発想に通暁できるように綴られていて、大きな刺激を受けた。数の問題、時空の連続性、エントロピーのはたらき、相対性理論の基礎、量子の関与、遺伝子の役割、人間の推理力などが一気につながっていったのは、これを読んでからだった。
科学というもの、専門的には大学で専攻すればいいが、一般の読者は誰のどの本の案内で読むかによって、その理解体験が大きく変わる。まずはガモフに導かれるべきである。