トムキンス氏は次々に、あやしい量子の世界や空間と時間が相対的になっているへんてこな世界に出くわして、そのたびに老教授の信じられないような説明を受ける。実はこの“おもちゃの宇宙”の出来事は白揚社の「ガモフ全集」第1巻目にあたっているプロローグで、続いて2『太陽の誕生と死』、4『原子の国のトムキンス』、7『宇宙の創造』、8『生命の国のトムキンス』、12『トムキンス最後の冒険』というふうに続くのだった。ぼくは夢中で全巻を求め、擬似トムキンスになって旅をした。
当時すでに感じていたことだが、これは凡百の通俗科学解説書ではない。ガモフはビッグバン理論の提唱者で、かつDNAの配列がコドン(3つ一組のトリプレット・コード)になっていることを予想した本格的な科学者だった。そのうえユーモアのセンスに富んでいた。だから、いくらトムキンス氏の夢想に付き合っても説明のレベルを落とさない。ぼくの科学的世界観はこのガモフによって(そして寺田寅彦とアンリ・ポアンカレとヘルマン・ワイル)によって鍛えられたのだ。