書きながら疲労困憊
本作では、初めて一人称でストーリーを進めるという挑戦も。「逃れられないような閉塞感、密封感は、被災地を自分の足で歩いた記者の一人称でないと表現できないと思った。自分も迷いながら書き進めたので、相当疲労困憊(こんぱい)しました。どんどん文章を研ぎ澄ました結果、これまでで最も薄い長編作品になりました(笑)」
このネタを、書くか、書かないか。ライバル他社も絡んだ息詰まる心理戦ののち、衝撃のラストが待ち受ける。「読んだ後に、壁に本をたたきつけてもらえたら大成功」とにやり。
「作家を10年やってきて、オセロのような白と黒ではなく、より深いところにあるグレーなものを描きたいという欲求がより強くなってきた。人間の営み、社会の仕組みの不条理さを描くことが、次の10年の課題になってくるのではないかと思っています」(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)