ただし、西武流通グループが破綻し、渋谷の路上での後ろ盾を失った「彼女たち」は、たとえどんなに目立っても、すでに時代の主役ではなく、次第に「サブカルチャー」の座へと転落していく。そしていま渋谷は、新しい五輪の時代へと向け、駅の直近を中心に、ふたたび新しい大規模開発の波にさらわれつつある。けれども、そのまさに渦中にあるビルの地下で、ひっそりと、しかし、かつて時代を画したものとして、山口の事実上の回顧展と呼んで遜色のない個展が開かれている。そのことは 、とても大きな価値観の変容を物語っているように思う。
なぜか。かつて山口の作品が人目に触れたのは、印刷物やビルボードといった複製文化の一端としてだった。ところがいま、山口の作品は複製ではなく、この世に一点ずつしかない歴史的な原画として、言い換えればアートとして展示されている。サブカルチャーが国家を代表するアートになる…そのような価値観の転倒は、2020年の五輪が開会式を迎える頃には、山口の描く女性たちが世に姿を現したときの衝撃を、はるかに上回る規模になっているかもしれない。(多摩美術大学教授 椹木野衣(さわらぎ・のい)/SANKEI EXPRESS)