ルネ・マグリット「白紙委任状」(1965年、81.3x65.1cm、油彩/カンヴァス_ワシントン・ナショナル・ギャラリー、提供写真)。National_Gallery_of_Art,Washington,Collection_of_Mr.and_Mrs.Paul_Mellon,1985.64.24。(C)Charly_Herscovici/ADAGP,Paris,2015【拡大】
パリ時代のころに描いた「一夜の博物館」には、早くも、オブジェ(物体)と言葉の関係性を混乱させるというマグリット独自の画風が萌芽している。棚に並んだ手首、果物までは言葉で呼べるが、左下のオブジェは何と呼べばいいのだろう。マグリットは終始「夢」ではなく「オブジェ」にこだわった。
第二次大戦中は、ナチスの侵攻から逃れて米国に亡命したブルトンらとは行動を共にせず、ベルギーに残った。一時は「禁じられた世界」のように、印象派のようなタッチで描き、ブルトンらから不評を買った。
イメージを操作
その後、以前の作風に戻り、マグリットの独自性は強まった。「白紙委任状」は、見えるものと見えざるものの関係を描いている。マグリットにとって「見えないもの」とは、見えるものによって「隠されているもの」を指す。
ほかに、巨大な岩が空中に浮かぶ「ピレネーの城」(1959年)のようなスケール、重力の混乱や、夜と昼の景色が合体した「光の帝国」(1954年)のような時間の混乱などイメージを操作して「あり得ない風景」をつくり出した。