それから、アウトサイダー・アーティストたちの作品や活動の地を訪ねる旅が始まった。33年も石を集めて築いたフェルディナン・シュヴァルの奇妙な宮殿「理想宮」(フランス)、活動中の火山を命がけで錦絵にした三松正夫の昭和新山(北海道)、「芸術は宗教の母」と言い、戦下の国家弾圧にも屈せず創作を続けた教団・大本(おおもと)の出口王仁三郎の活動拠点(京都)など。事あるごとに出かけては、彼らの生い立ちや生きた形跡、故郷の風土に触れてきた。
価値観を暴力的に相対化
取り上げているアーティストたちはほかに、ヘンリー・ダーガー、ルイーズ・ブルジョワ、ジャン=ピエール・レイノー、田中一村、山下清らもいる。ブルジョワやレイノー、山下らは生前からある程度評価されているが、椹木氏が再三、指摘するのは、「アウトサイダー」の本質だ。本質は、私たちが陥りがちな「美術の専門教育を受けていない特異な創造者」という帰属性(外面)にはない。「社会の一員である以前にどこまでも個でしかない、人間という実存のもっとも危機的な後ろ盾のなさに気付いてしまった者」という内面性にこそある。