特別じゃなくてもいい
しきりに徳江のクビを促すどら焼き屋オーナーの強い圧力に苦しむ千太郎。状況を察した徳江は自ら静かに身を引き、どら焼き屋を去ってしまう。千太郎や、徳江と心を通わせていた中学生の客、ワカナ(内田伽羅(きゃら))の喪失感は計り知れないほど大きなものとなったが、同時に、生きるうえで大切なものも徳江から確かに受け取っていた。「人と人がしっかりと触れ合うことで、両者の関係は豊かになり、本当の人間関係を築くことができる」。ロケで元ハンセン病の人々が暮らす施設を訪れた河瀬監督は、徳江の気持ちを代弁してみせた。
《この世に生を受け、さまざまな事象を見聞きできるだけでも幸せではないか。特別な何かになれなくてもいいではないか》-長年、元ハンセン病患者が生活する施設で暮らしてきた徳江は、過去の過ちに苦しみ、いつも愁いをたたえている千太郎にこんな気持ちを伝える。《誰かに評価されるためでなく、自分自身が納得できる千太郎のどら焼きを作ってほしい》とも。