子規は紫陽花の「移り気」がよほど気になったらしく、「紫陽花やけふはをかしな色に咲く」「紫陽花の何に変わるぞ色の順」という、似たような句も詠んでいる。でも、ぼくが好きなのは「紫陽花や壁のくづれをしぶく雨」「紫陽花にあやしき蝶のはなだ哉」「紫陽花に浅黄の闇は見えにけり」のほうだ。紫陽花についつい見とれているとそこにやってきた蝶々の翅(はね)がなんともいえない縹色(はなだいろ)だったという一句、まさに病身の子規らしい写生で好ましい。
いま思い出したが、三好達治の最も有名な『乳母車』は紫陽花に託されていた。「母よ―― 淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり はてしなき並樹のかげを そうそうと風のふくなり」というものだ。あらためて紫陽花は日本の母だったのかと思わせる。
紫陽花の色の変化はアントシアニンによる。これに土壌のアルミニウムイオンや補助色素が加わって無限に色合いを変える。もともとの紫陽花が赤系か青系かは土壌で決まる。土壌が酸性であれば青っぽく、アルカリ性だと赤っぽく、中性であれば清廉な白になる。土が花の色なのである。紫陽花は、まさしく 母なる不思議な花だったのである。