人民元の相次ぐ切り下げで中国の「金融覇権戦略」の綻びが鮮明になった。アジア・インフラ投資銀行(AIIB)設立を目指すなど、基軸通貨を抱える米国に挑戦状をたたきつけた中国だが、相次ぐ市場への人為的介入で、「金融覇権」に不可欠な「自由な資本移動」をないがしろにした印象が国際金融市場で強まっている。
毎年8月になると、ニューヨークでは証券アナリストが集まって、経済見通しを議論する。直近の会合では「中国が世界経済のリスク」と名指しされた。
やり玉に上がったのは、6月以降の株価急落に対応した大口売り禁止などの売買規制。米政治経済調査会社ストラテガスのジェイソン・トレナート氏は、「(市場を閉ざすことで価格調整機能が弱まり)中国は自ら成長の機会を閉ざしている」と批判した。
米国の「金融覇権」を支えるウォール街の住人は、政府の市場介入を嫌悪する。「(不透明な分だけ)介入は実体経済の悪化を連想させる」(米銀ウェルズ・ファーゴ)からだ。
3つの事柄が同時に成立しえない状況をトリレンマと呼ぶが、経済界には、「国際金融のトリレンマ」なる命題がある。「(為替の)固定相場制」「独立した金融政策」「自由な資本移動」の3つを同時に達成できない政策の限界を指し、国家は3つのうち1つを諦めざるをえない。