若林の作品は、見る者にイメージを強いる。あおむけに寝た少女が立てた膝の上にハエが乗り、煙とも魂とも知れないものを少女の口に吹き込む「無題」(1968年)や、いくつもの泡のような突起のついた鉄板の下に、もう一つ突起のある鉄板がぶら下がる「中に犬・飛び方」(1967年)など、得体の知れない形に触発されて、私たちはいや応なく想像を膨らませることになる。
なかでも、1965年の二科展に出品した代表作の一つ「残り元素」I、II、IIIには、さまざまな思いを抱く。作品について若林は別の彫刻家に、「世界の終末の予感が発想の根底になっている」と話した。「残り元素I」は、煙突のついた化学工場なのか、大砲を突き出した装甲車なのか、何かの「文明の象徴」の前で、なすすべもなくうずくまる(うなだれる)人間を表しているのだろうか。
第二次世界大戦(39~45年)後わずか5年で朝鮮戦争が起こり、15年後にはベトナム戦争も始まった。若林ならずとも世界の終末を予感するのは普通の神経だった。