【アートクルーズ】
鎖国から明治時代へと移行する幕末には、書物による情報が、人を動かし、時代をも変える重要な“原動力”となった-。東洋文庫ミュージアム(東京都文京区)で開かれている「幕末展」には、吉田松陰、坂本龍馬、勝海舟ら歴史上の人物たちが愛読することで実際の行動を起こした貴重な本が展示されている。
アヘン戦争の情報も
「海国兵談」は1791(寛政3)年に学者の林子平(1738~93年)が自費出版した。林は「千部施行」の印を押して1000部の発行を目指したが、実際には30~40部しか発行できなかったらしい。さらには幕府から「誤った情報で世間を惑わしている」と、本は絶版、林は謹慎の処分を受けた。
しかしそのわずか4カ月後、ロシア使節が北海道の根室に来航。林が本の中で「沿岸の警備を整えて防衛する力を高めるべきだ」と指摘したように、幕府は沿岸警備の強化を迫られることになる。
東洋文庫の岡崎礼奈・専任学芸員は、「鎖国時代は情報が遅れていると思われがちだが、海外から情報を得る窓口は、少ないながらもあったし、特に19世紀に入ると、情報を意識的に得ようという高まりも出てきた」と指摘する。例えば、長崎に出入りする中国商人らからニュースを得るようになる。