「ドンノバート」
4日間の取材が終わり、モスミとのお別れが近づく。ドンノバートとは、ベンガル語で「ありがとう」の意味だ。別れの時、私たちはお互いに何度もこの言葉をかけあった。それ以外の言葉が見つからなかった。
帰国後、数カ月たってもこの時のことを思い出すと無力感にさいなまれる。ワールド・ビジョンはスラムで継続的な支援を行っている。しかし、成果が目に見えるようになるには時間がかかる。
モスミは支援によって、「教育センター」に通えるようになった。センターでは、学校に通うことができないスラムの子供たちのために、勉強の機会と用具を提供している。午前と午後に分かれて1日2時間勉強し、あとの時間はゴミ山で働く。スラムには経済的な事情で学校に通えない子供が多く、センターで抱えきれないほどだという。
あんなに幼い少女が、裸足で無防備にいていいはずがない。あんなにひどいゴミ山で生きていていいはずがない。あの子を守るすべが教育センターだけというのは、なんと心もとない。それでも、教育センターにいる時間は彼女が唯一、守られ、子供らしくしていられる時間だ。あなたには生きる価値がある、希望をもって生きる権利がある、それを学ぶことができる唯一の場所だった。