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イナガキタルホが放つ都会の遊星的郷愁 いまこそ稲垣足穂の文芸的抽象力が求められている 松岡正剛 (3/5ページ)

2016.1.24 11:00

 ある夕方、アスファルトの上を歩きながら「だあれもいない、妙だな」と独り言をいうと、「それが面白いんだ!」とはね倒された。パチン!

 【KEY BOOK】「一千一秒物語」(稲垣足穂著/新潮文庫、680円)

 タルホは23歳のときに『一千一秒物語』を上梓し、その後に自分が書いたものはすべて『一千一秒物語』の註にすぎないと言い続けた。その通りなのかもしれない。ぼくがこれを読んだときの衝撃も類例のないもので、とくに「ある夕方、お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた」の一行には全身が震えた。主体性とか自分とかを軽く超えているだけでなく、一切の世事をお月様の動向に託せる感覚に痺れたのだ。類作に『第三半球物語』など。

 【KEY BOOK】「弥勒」(稲垣足穂著/河出文庫、648円、在庫なし)

 タルホ唯一の中篇小説。主人公の少年(江美留)が黒板に書かれた「六月の都会の夜」という7文字から連想するキネオラマもどきの幻視幻像が文芸幾何学めいて展開される。それがついに弥勒菩薩の半跏思惟像にオーバーラッピングされてクライマックスになる。ファンタジーのようでいて、タルホの青少年期の細部感覚が散りばめられているハイパーリアルな小説である。ぼくはこれをラジオから雑音を超えて到来する周波数のように読んだ。

ド・ジッターやアインシュタインの宇宙モデルを読み解く

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