定例会見で追加緩和につてパネルを使って説明する、日銀の黒田東彦総裁=10月31日午後、東京都中央区の日銀本店(早坂洋祐撮影)【拡大】
■総裁の強気スタンス、「限界になった」の見方も
31日公表の9月の経済指標では、有効求人倍率が3年4カ月ぶりに悪化し、堅調だった雇用情勢に影が差した。1世帯当たりの家計消費支出は6カ月連続のマイナス。企業業績はおおむね好調だが、自営業などを除くサラリーマン世帯の実収入も12カ月連続で減少した。「増税による(物価上昇で)実質賃金の低下が原因」(総務省)だ。
足元の物価動向も、デフレ脱却への歩みが怪しくなってきている。増税分を除く物価上昇率(生鮮食品除く)は今年4月に前年比1・5%を記録したが、原油安などが響き物価の伸びは鈍化。9月は1・0%と、1%割れが目前だ。今年度後半から2%に向けて回復していくとしていた黒田総裁の見立てとは乖離している。
日銀が今回、追加緩和に動いた背景を、明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは「黒田総裁のこれまでの強気スタンスが限界になったということ」と分析する。
一方、黒田総裁と二人三脚で日本経済の再生を主導する安倍晋三首相には、年末に向けて消費税率を8%から10%に引き上げる再増税に踏み切るべきかの判断時期が迫っている。
「軽減税率実施などの条件付きながら、再増税容認の空気が醸成されていくのではないか」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)。政府・日銀にとって追加緩和のカードを切るにはここしかないタイミングだったともいえそうだ。(藤原章裕、万福博之)