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【書評】『昭和天皇「よもの海」の謎』平山周吉著

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【書評】『昭和天皇「よもの海」の謎』平山周吉著

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 ■謎の著者による謎解きの書

 読書のさいにはたいてい、ふせんを手にしている。

 一種の職業病で、「後々、引用してやろう」と思う文章に目印をつけるためだ。

 ふせんを張り付けているばかりでは芸がない。だから、赤ペンで「見事!」とか「本当か?」などと、短く感想を書き込んだりもする。

 《よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ》-という明治天皇の御製(ぎょせい)を軸に、開戦前から崩御に至るまでの昭和天皇の御心(みこころ)と秘史に迫るこの謎解きの書を読了したとき、赤文字が躍るふせんの数々が各ページにそそり立ち、さながら剣山のようであった。

 読書は、著者と読者の知的格闘の営みともいえよう。小生には過去、本書が扱う時代について何度か連載を担当したことがあった。初めて手に取り、「歴史の黒白(こくびゃく)を見事、反転!」「日本的意思決定の正体を解明!」という表紙の帯を目にしたとき、「ならば挑戦」という反骨心がうずくのを禁じ得なかった。

 が、圧倒された。

 異論をとなえたくなる箇所が散在するにもかかわらず、その出典の多彩さと豊かさ、そして行間からほとばしる著者の情熱に、である。その熱は光だけでなく、陰翳(いんえい)をも放っている。だが、それゆえに読む者の心に突き立つ。

 さて、この謎解きの書を読み終えてもなお解けぬ謎が残る。なぜ本書の著者が「平山周吉」なのか-。

 映画ファンならご存じであろう。そう、小津安二郎監督の世界的名作『東京物語』で笠智衆(りゅうちしゅう)が演じた、枯れた老主人公の名前である。これは筆名(ペンネーム)に間違いない。本名ならば担当編集者が逆に筆名を勧めるにちがいないからだ。

 本書で「小津」は終盤、意味ありげに登場する。だが、分量としては300ページ近い大著の1ページ弱である。また、その内容も謎解きの材料になるとはとても思えない。

 この気鋭の著者による昭和史の発掘は本書にとどまることはないだろう。次作にも大いに期待する。同時にそれが「なぜ平山周吉が歴史を書かねばならぬのか」という謎に迫る書であることにも。(新潮選書・本体1400円+税)

 評・関厚夫(編集局編集委員)

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