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書評
【書評】『マラカナンの悲劇 世界サッカー史上最大の敗北』沢田啓明著
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『マラカナンの悲劇世界サッカー史上最大の敗北』沢田啓明著(新潮社・本体1500円+税)
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「ちょちょちょ、ちょっと待って、そもそもなんでサッカーを観(み)ているだけでひとが死ぬの?」
“マラカナンの悲劇”のことをかつて身内に話した時の反応がこれです。
「サッカーの観戦ごときで」
確かにわれわれ日本人が覚える最大の違和はここにあるのかもしれませんが、生来説明能力を欠く私はうまく答える事ができませんでした。
「タロッチの説明じゃ全然わかんない…」
そんな私に代わって、本書はこの問いに応じています。
“マラカナンの悲劇”とは、1950年W杯ブラジル大会の最終戦で敗北したことによる開催国のショックのことです。心臓発作による死者まで出した悲劇を、会場となったマラカナンのスタジアムの建設段階にまで遡(さかのぼ)って語り直しています。対戦国の隣国ウルグアイとの関係、本戦の経過、メディアの様子、実際の試合展開、サッカーそのものの由来、選手個々の心理にまで踏みこみ、すべての因果が噛(か)み合ってしまった時、人命に関わる悲劇がサッカー観戦でもおこりうることを淡々と説いているのです。淡々とした筆致の中にも著者の意識を食い破ったような「ゴール!」といった文言の登場が、攻守の境がないサッカーの突然性を体現しているようにも感じる一冊です。
“この本は二〇一四年ワールドカップへ照準を合わせて書かれたものではない”
著者は“あとがき”でこのように語っており、資料収集を含めて20年以上かかったという道のりを推して私も共感します。
「…なるほど」
しかし、W杯における注意書として老若男女に幅広く読まれても一向に構わない一冊だとも思います。
「タロッチ、ごめんね」
“マラカナンの悲劇”以来のブラジル大会はもうまもなく。
「ごときなんて言ってごめん」
4年に1度だけ観戦する身内のような人はとくに読んでおくべきでしょう。
「ひとはサッカーを観ているだけでも死ぬんだね」(新潮社・本体1500円+税)
評・松波太郎(作家)