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書評
【書評】『勝運をつかむ』谷川浩司、井山裕太著
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「勝運をつかむ」
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「一人が持っている運の量は平等で、運が悪い人というのはつまらないところでそれを使っているのではないかと思うのです」と、将棋の谷川浩司九段は囲碁の井山裕太六冠に語る。
谷川九段とは私が『週刊将棋』編集長を務めていた時代から20年以上のお付き合いになる。一般の人が勝負師に抱くギラギラしたイメージとは正反対で、いるだけで周りの雰囲気を変える澄みきったオーラをまとった棋士である。21歳の史上最年少で名人位を獲得した後、7大タイトルを次々と制覇し、平成24年からは日本将棋連盟会長として運営の重責を担う。
「対局中だけでなく、ふだんどれだけ囲碁のことを考え向き合っているか、いい時だけでなく悪い時でもそうした姿勢を保つことが大事。ですからどの世界でも長く活躍されている方を尊敬します。自分はタイトルを取り始めてまだ数年で、棋士として完成しているとは思いません。尊敬すべき方を目指しやれるところまでやってみようと思っています」と井山六冠は応える。
井山六冠とは、私の勤務校で囲碁十段戦五番勝負が開催された際に何度かお話しした。囲碁界を席巻する盤上の力強さとは対照的な、20代とは思えぬ落ち着いた物腰と謙虚さに感服するほかなかった。
本書のタイトルは、勝負に携わる者ならだれでも気になるフレーズである。私は大学の講義で「知的ゲーミング演習」「遊戯文化史」を担当し、学生に囲碁・将棋・バックギャモンの実技や歴史を教える一方、アマチュアとして将棋大会にも参加するので、運を味方にする方法があるなら知りたいと強く思う。
理論的には囲碁や将棋といった「二人零和有限確定完全情報ゲーム」は盤上の技術が勝敗を分ける。しかし現実はどうか。達人のメッセージからは、日常の積み重ねのわずかな違いが運につながってくることを教えられる。2人の「言葉の対局」は知的ゲームを趣味とするプレーヤーだけでなく、勝負事には縁のないと思っている人たちの生き方のヒントにもなるだろう。(致知出版社・本体1200円+税)
評・古作登(大阪商業大アミューズメント産業研究所主任研究員)