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【書評】『だからこそ、自分にフェアでなければならない。』小林紀晴著

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【書評】『だからこそ、自分にフェアでなければならない。』小林紀晴著

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『だからこそ、自分にフェアでなければならない。プロ登山家・竹内洋岳のルール』小林紀晴著(幻冬舎・1300円+税)  □『だからこそ、自分にフェアでなければならない。 プロ登山家・竹内洋岳のルール』

 ■山を離れてもあてはまる

 本書を読んでまず知ったのは、地球上には、標高8000メートルを超える山が14座あることです。エベレストはすぐに思いつきますが、その他は、なかなか名前が出ないのが実情でしょうか。竹内洋岳(ひろたか)は日本人で唯一、その14座すべての登頂に成功した人物。いわゆる14(フォーティーン)サミッターです。

 達成できたのは世界に31人だけ。標高8000メートルの世界は、酸素と気圧が平地の3分の1、気温は平均マイナス35度。山ごとに、登頂の死亡率も出ています。一番低いのはチョー・オユーの2・5%ですが、一番高いアンナプルナだと40・8%に跳ね上がります。この山は過去に130人が挑戦して、53人が命を落としました。

 竹内自身も、2005年、34歳の時に登ったエベレストで、脳血栓により突然倒れました。「死んでいくところを記録しろ」と仲間に告げたのは、見殺しの憶測を防ぐため。2007年7月には、ガッシャブルムII峰で巨大な雪崩に巻き込まれ、約300メートル落下。共に登っていた3人のうち、ひとりは死亡し、ひとりは行方不明になりました。背骨を折ったものの竹内だけが生還できました。

 なぜ、日本人で竹内だけがこの記録を達成できたのか、なぜ、命を落とすことなく生還しつづけたのか。本書は、その理由を写真家の小林紀晴が探ったルポルタージュです。「何かが決定的に違うはずだ」と。そのために小林がとったのは、10時間に及ぶインタビューに加え、実際に竹内と一緒に「天狗(てんぐ)岳」に登ることでした。小林の精緻(せいち)な筆致で、竹内の言動が拾い上げられていきます。

 驚いたのは次の言葉。「8000メートルを超えると、経験は役に立ちません。むしろ余計だという気もするのです。経験を持ち込んでしまうっていうのは、非常に危ないと思います。何故ならば、同じ山は二つとないからです」。随所に竹内の仕事を貫くバックボーンが読み取れます。

 「竹内さんの言葉の魅力は、山を遠く離れてもそのままあてはまることではないだろうか」。小林があとがきで述べた感想です。(幻冬舎・1300円+税)

 評・森岡督行(森岡書店店主)

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