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書評
【書評】『ポップ中毒者 最後の旅』川勝正幸著
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「ポップ中毒者最後の旅」川勝正幸著(河出書房新社)
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読み終えるのにかなり骨が折れた。何しろ380ページほどのほぼすべてに余白がなく、端まで活字でびっしりと埋め尽くされている。その膨大な文字量は、映画、音楽、アートに漫画、書籍、ラジオ番組と、あらゆるポップカルチャーに関する著者の幅広い知識の海を縦横無尽に泳ぎ回っていて、これらの文化事象に関心はあるもののあまりよく知らない当方などは、おぼれずについていくのもおぼつかないありさまだった。
まずもって興味の対象の広さと深さに驚かされる。映画について言えば、デニス・ホッパーとデイヴィッド・リンチに相当な執着と敬意を抱いているのがうかがわれるが、同時に「スター・ウォーズ」や「いちご白書」、さらに著者いわく「ヌケないAVを撮る男」平野勝之監督の「監督失格」にまで及ぶ。音楽の分野でも、小泉今日子、クレイジーケンバンドに真保☆タイディスコ(このくだりはまるでちんぷんかんぷんだった)と、映画評論や音楽評論などそれぞれの専門家でもここまで探求している人は少ないのでは、と思われるほどの博覧強記ぶりだ。
単にDVDを見ています、CDを聴いています、というレベルではなく、クラブやライブ、美術展などに顔を出し、アーティストたちと交わり、原稿を書いて書物を編集する。リンチがパリの百貨店で展覧会をやっていると聞いたら自腹で飛んでいく。あとがきとして解説を寄せている編集者の君塚太氏によると、執筆や取材の前には準備に準備を重ねて臨んでいたそうで、いったいいつどこで寝ていたのだろうとさえ思う。
まさにポップ中毒者を自称するにふさわしいが、著者は平成24年1月に55歳でこの世を去っている。これからも次々と生まれてくるであろう刺激的な文化をどのように切ってくれたのか、もう見届けることができないのは残念としか言いようがないが、遺稿を集めたこの本に載っている作品やアーティストの中には、当方がまだ触れていないものが大量にある。この最後の旅に付き合うだけでも、相当な興奮を覚えるに違いない。(河出書房新社・2700円+税)
評・藤井克郎(文化部編集委員)