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【書評】『フィリピンの独立と日本 リカルテ将軍とラウレル大統領』

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【書評】『フィリピンの独立と日本 リカルテ将軍とラウレル大統領』

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フィリピンの独立と日本  ■「真のナショナリスト」描く

 フィリピン人のナショナリストとして、日本ではホセ・リサールやエミリオ・アギナルドが知られるが、本書が描くアルテミオ・リカルテ将軍、ホセ・ラウレル大統領はほとんど知られていない。

 リカルテは19世紀末以後、対スペイン、対アメリカ独立戦争を戦った。アメリカへの忠誠を拒否し、グアムに流され、香港を経て1915年に来日。横浜は石川町149番地にフィリピン料理店を構え亡命生活を送っていたが、1941年12月、日本軍のフィリピン侵攻とともに帰国、アメリカ軍と戦うように訴え、悲劇の結末を迎えた。リカルテが生涯をかけて求めたのは、外国の支配から独立した祖国フィリピンだった。

 アメリカ植民地下で内務長官を務めたラウレルは法律家だった。1943年10月14日には、日本の影響下で樹立されたフィリピン共和国の大統領となった。こうした出自によりフィリピンでは戦後しばらく、ラウレルは対日協力者として批判された。

 しかし、その言動を史料に基づいて検証していくと、ラウレルは日本軍の不当な要求、干渉、圧力の中にあって、常にフィリピン国民のことを第一に考え、体を張って日本軍に異を唱え、フィリピン人を護(まも)り抜こうとしたことが分かる。当時、大統領特別顧問としてラウレルを支えた浜本正勝による回想がそのことをよく物語っている。

 戦時下のフィリピンでは、日本側の不当な要求に抗し、フィリピンとフィリピン人を護ろうとしたリカルテとラウレルを尊敬する日本人が少なくなかったとも聞く。

 本書はこうした2人のフィリピン人を、南進という日本の国策に協力した親日的なフィリピン人としてではなく、困難な時代にあって戦い抜いた真のナショナリストとして描いている。2人に共通するのは未完のフィリピン革命の成就を追求した点である。

 著者は長らく現地で暮らしたフィリピン現代史の研究者で、平易な文章の随所に専門的な知見が生かされている。冒頭に描かれる19世紀後半から20世紀初頭のフィリピン民族運動の描写も素晴らしい。(寺見元恵著/彩流社・2500円+税)

 評・寺田勇文(上智大学総合グローバル学部長)

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