サッカーの日本代表でアルベルト・ザッケローニ監督の通訳を務めた矢野大輔さんの「日記」を一冊にまとめ上げた本である。
記述は平成22年8月からの約4年間に及ぶ。今年6月に開催されたブラジルW杯を含め、活動期間中にチーム内で起きた、さまざまな出来事が克明に綴(つづ)られている。
矢野通訳はいわばザックの「分身」だが、監督には直接言いにくい選手たちの本音も聞ける特殊な立場にある。誰よりもチームの内情に明るいと言ってもいい。
その人物が「建前いらず」の日記に双方(監督と選手)の本音を漏らさず、書き残しているのだ。公には語られていない門外不出のネタ(?)が満載という感じである。
思わずドキリとさせられるのは、監督と選手側の思惑がすれ違う場面だ。昨秋の欧州遠征にて、エースの本田圭佑が従来とは“違う攻め方”をザックに提案する。
「味方同士が近づいてパスを回したい」
ザックは本田の思わぬ発言に戸惑う。就任以来、ピッチを広く使った攻撃を説いてきたからだ。味方同士が接近し狭い空間で球を交換すれば、フィジカルで勝る相手に押さえ込まれてしまう-。こうしたザックの言い分に、本田らが異を唱えた格好だ。
「これまでの3年間は一体、何だったのか。私のコンセプトに従えないなら、私が監督を続ける意味はない」
怒りを隠せぬザックの様子が綴られている。最初から順を追っていけば、すれ違いの兆しが読み取れるだろう。
「選手たちは狭い空間に入り込んでしまう…」
矢野通訳が何度もボヤいていた。W杯の前後に喧伝(けんでん)された“日本のサッカー”とは、何だったのか? そんなことまで考えさせられる。
似て非なる2つのサッカーが交錯しながらW杯で惨敗。結局、未消化に終わったオリジナルの3-4-3システムも含め、名将の企図したサッカーは空転してしまう。
敵は我にあり-。
これこそ、本音渦巻く日記が伝える“ザックジャパンの真実”かもしれない。(文芸春秋・1500円+税)
評・北條聡(週刊サッカーマガジン元編集長)