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天安門車突入 香港に「飛び火」懸念
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北京市の天安門前で起きた車両突入事件を中国当局は「テロ」と断定し、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の独立を目指す「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」を黒幕として名指しした。当局の統制を受ける中国メディアの間では、独立派を「特異なテロ集団」と位置付けて事件の幕引きを図る論調が目立つが、海外メディアは事件の背景にある構造的な少数民族問題に注目している。一方、「一国二制度」で言論の自由が認められている香港のメディアでは、当局の締め付け強化という香港への“飛び火”を懸念する声も上がっている。
香港紙の明報(電子版)は10月31日、「ソフトな新疆行政は難しくなる」と題した記事を掲載。2010年、新疆ウイグル自治区トップに就任した張春賢・区共産党委書記(60)について、「『新疆王』と呼ばれた前任者の(少数民族に対する)高圧的なやり方を一変し、民族間の矛盾緩和に向けたソフト路線を続けてきた」と分析しつつも、「一連の暴力事件から判断すると、ほとんど奏功していないようだ」と切り捨てている。
また、新疆ウイグル自治区の情勢について、「1980年代以降に生まれた『80後(バーリンホウ)』のウイグル族は、中国の市場経済化の過程で漢族との格差が拡大し、漢族への憎しみは一層大きくなっている」との専門家の見方も紹介した。
10月30日の論評記事では「この事件の香港への影響は低く見積もることはできない」と、香港にとって事件が“人ごと”ではないとの視点を提供。中国の指導者が最も受け入れ難いのは「中国の領土内で外部勢力と結託して独立運動を行うこと」であり、香港では言論の自由が認められているものの、領土と主権問題というタブーが存在することを一部の香港人は軽くみているのではないかと警鐘を鳴らす。
一方、10月30日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は「海外のウイグル人活動家や中国にいる多くのウイグル人は、新疆における緊張状態が、近年の漢族の大量流入と治安部隊の増強によるものだと主張している」と言及。10月31日付紙面では、「新疆とチベットにおける反政府活動は中国政府に難題を課している」とし、「現地の生活水準を上げるための投資拡大や、治安強化も暴力を止められない」と問題の深刻さを指摘している。
対照的に、中国側は火消しと沈静化に躍起だ。共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は(10月)30日、「今回の事件が関心を集めるのは避けられないが、北京社会の反応は平静だ」と強調。「これまでも天安門広場では種々の問題が発生したが、中国が安定してさえいれば、長くとどまる問題など起こりようがないのだ」とし、まるで今回の事件が人々の記憶に残ることはないと自らに言い聞かせているようだ。
また中国の日刊紙、法制日報は(10月)31日、「テロ勢力と民族分裂勢力、宗教原理主義勢力」を「3つの勢力」と同一視し、「法により打撃を加えないといけない」と力説。北京紙の新京報も10月31日付の社説で、「このテロ攻撃の意図は非常に明白である。
中国政治の心臓部で騒動を起こして、世界の関心を集めるのが目的だ」とした上で、「こうしたテロ活動を行うのは極めて少数の犯罪分子であり、テロ勢力と民族分裂勢力、宗教原理主義勢力およびウイグル独立勢力は、全国の各民族と文明世界の共通の敵である」と“テロとの戦い”を宣言してみせている。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)