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鴨のうま味たっぷり 身も心もほっこり 鴨弘
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鴨鍋(1人前5000円)は、まず鴨肉をさっとくぐらせて一口。だしに鴨のうまみが染み出し、たっぷりの京野菜がさらに味わいを増す。あたたかな湯気もごちそうのうち(恵守乾撮影)
聖護院(京都市左京区)といえばお寺としてよりも、大根や蕪(かぶら)など京の伝統野菜発祥の地として有名かもしれない。そこにひっそりとたたずむ京人(きょうと)料理「鴨弘(かもひろ)」は、鴨鍋のお店として人気がある。3月に入ったとはいえ、まだまだしんしんと冷える古都の底冷え。お鍋で身も心もほっこりと温まって、本格的な春の訪れを待ってみてはいかがだろうか。
鴨川から東へ、琵琶湖の第2疎水をせき止めた夷川ダムに沿って数分歩くと、真っ白いタイルの建物が見えてくる。「鴨弘」と染め抜かれたのれんをくぐって、木の引き戸をガラガラと開ける。カウンター7席と座敷1つというこぢんまりとして家庭的な雰囲気が漂う。
「鴨鍋をメーンにしていますが、うちは鍋屋ではなく、割烹(かっぽう)料理の店なんです。和食や割烹料理というと、有名な店が軒を連ねる京都の先輩方になんだか申し訳ない気がして。26年前に独立したとき、店の顔となるような料理がないかと考え、思いついたのが鴨鍋でした」とご主人の青木弘さん。
京都は鴨猟が盛んな湖西からも近く、街中にある普通の精肉店でも比較的簡単に手に入る鴨肉は、京ならではの食材といえそうだ。
鴨弘で使う鴨肉は、京の茶所、宇治で70日間飼育された京鴨。鴨は成育段階でストレスがかかると、肉の味に大きく左右されるという。段々畑が連なる丘の上にしつらえられた飼育場は、日がぽかぽかと当たり、吹き抜ける風もさわやか。そんな穏やかな場所で育った鴨を、それも朝びきされたものだけを使うというこだわりだ。
また、肉のうま味を引き立てる脇役の存在も欠かせない。白菜や菊菜、ネギ、水菜などの野菜も朝露とともに運ばれてくる、近隣の地場産ものを使うという。
真っ白なお皿にたっぷり載った鴨ロースとつくねは1羽分2人前。鮮やかな赤と白のコントラストは色目も美しい。
鍋は銅鍋、カツオと昆布でていねいにひかれただしがすっきりと澄んでいる。火にかけてぐらぐらと煮立ってきた鍋に、鴨ロースをさっとくぐらせてしゃぶしゃぶでいただく。熱々のところを一口。
軟らかい肉をかむと、癖のないジューシーな味が染み出してくる。どんどん手が伸びる。丁寧に手でたたかれたつくねも、口の中でほろりと崩れて思わず笑みがこぼれる。鴨のうま味が鍋にうつったところで野菜や豆腐を入れ鴨肉をじっくりと煮ていく。
「鴨肉は豚や牛肉に比べてビタミンAやB2が多く含まれています。また、不飽和脂肪酸といわれるリノール酸が多く含まれるので肌のキメが整います。女性にはお勧めですよ」と笑う青木さん。
どれだけ煮ても牛肉や豚肉のようなあくはまったく出ず、肉も軟らかなまま。最後まで澄み切っただしを余さず味わってもらおうと、最後のシメは雑炊を勧めるとか。希望があればそばにも変更は可能だが、鍋のうま味が存分に味わえる雑炊は、五臓六腑に染み渡るよう。
鍋だけでおなかいっぱいだが、ここは割烹料理屋。その日に入った新鮮なお造りや、この時期ならではの魚介類もふんだんに楽しめる。
「お客さんから、まだまだ食べたいけどもう食べられへん」と言われるのが何よりの幸せという青木さん。「最初はまず鍋でお店を知ってもらって、次はこれが気になるなと通ってもらえたらうれしい」という。
お昼はより気軽に訪れてもらえるように、和食屋が作る洋食をテーマに、タンシチューやハヤシライスも提供。さらりとした味わいのタンシチューは、3日間煮込まれてなんともまろやか。もちろんタンも口の中でとろけそうなほど軟らかい。大ぶりに盛られたごはんとサラダ、スープもついているので男性にもお勧めのボリュームだ。
おなかも心もほっこり満たされ、幸せな気持ちで店を後にすれば、鴨川べりの散策はいい腹ごなしになる。川にそよぐ風に春の匂いを感じた。(文:木村郁子/撮影:恵守乾(えもり・かん)/SANKEI EXPRESS)