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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】対談を終えて(6-6)

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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】対談を終えて(6-6)

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「どの色がいいかな?」と迷う天童さん。あれこれ選ぶのも楽しい=2014年2月12日、東京都港区の「BOOK246」(宮崎裕士撮影)  ≪人材・資材をよみがえらせる善意≫

 社会が抱えてる大きな問題の一つはゴミ、もう一つはノーマライゼーション。つまり、障害がある人の雇用だと個人的に思っています。仕事にちゃんとつけない人が増えていますが、そういったことの象徴的な存在でもあろう、と。そういった存在を、どう社会とつなげていくのか。(NPO法人)「NEWSED PROJECT(ニューズドプロジェクト)」(以下NP)と(通所施設)「地域作業所 hana」(以下ハナ)がやられていることは、隠れていた大きな2つの問題をつなげ、説き明かしてくれる先端モデルだと改めて思いました。うまく突破できずにいた所に、若い力が一つの解を示してくれた。

 それをかなえたのは、まず作業所側の変化だと思います。廃材から何かを作ろうというのは、青山(雄二)さん自身がおっしゃっていたように目新しいことではないかもしれない。でも、それを福祉の問題とつなげたところがすばらしかった。でも、それには応えられる姿勢がないと仕事として回っていかない。まさに相互の幸福なる出会いだったと思います。

 正の方向へ転化

 企業はどうしても利益を上げるための組織ですから、障害者を仕事で生かす考えが及ばない面が出てくる。だったら、作業所側が変わる方が早い。福祉の側が、利用者を特性を持つ労働者ととらえて、どう社会とつながっていくのかを前向きに検討する。ハナさんのあり方は、一つのモデルだと思います。

 NPとハナさんに共通しているのは、これまでうまく使われなかった人材と資材に新しい価値を与えて、仕事の形で社会とつなげていること。そういう意味でも、双方がとてもマッチした。

 もちろん、みんながハナさんのように変われるわけではない。ただ、できる人がいるならそこを伸ばそうよ、というフレキシブルなファクトリーになればいい。これまで作業所は、できない人に合わせてきたように思う。そうすると、できる人をうまく伸ばすことができない。眠っている個々の能力も掘り起こせない。できる人を伸ばし、眠っている能力を起こすには、ハナさんのように、作業所自体がファクトリーとしての力を持つことが大事じゃないか。できない人もいるけれど、そこはそこでフォローすればいい。

 ビジネスという言葉には冷たい印象がありますが、むしろ厳しいかせを与えることで、人は成長する。社会とつながるステージを上げることになる。お互いが仕事をしていく中で、そんなことにも気づかれたのではないか。

 ビジネスという視点は、眠っていた善意を揺り起こす効果もあったようです。廃材を提供する企業にも、使い残しを捨てざるを得ないという罪悪感があった。それを、喜びに変化させた。喜びは伝播(でんぱ)する。利益にはならないけれど、よいことをしているというのは気持ちがいい。だからこそ、積極的に廃材を使ってもらいたいという気持ちになる。

 善なる気持ちが広がり、回転していく。使われなかった資材や人材が、ビジネスという劇薬にも似た刺激を与えることで、活性化した。思いがけない効果が生じている。

 廃棄物を出すとか、ハンデのある方々を見ないようにしたり、福祉の側へ押しやったりしていることへの罪悪感を、いかに正の方向へ転化するか。旧来の考え方に縛られない若い人の、モノや人や福祉のとらえ方が、世界を明るく開いてゆくモデルを提示している。

 地域を大事に

 もう一ついいなと感じたのは、お二人が地域をとても大事にしていらっしゃること。ハナさんはもちろんのこと、NPの母体であるケンエレファントも、会社がある神田のお祭りに参加したり地域手帳を作ったりと、貢献されている。地域を大事にするというのは、人を見るということ。つまり、個々の人なんて見ないグローバリゼーションとは逆のローカリゼーション。それが、NPのプロジェクトをうまく回転させている。

 グローバリゼーションは負をいかに切り捨てて利益を得ていくかということだから、どうしても行き詰まる。社会にどんどん負の存在ばかりを増やすことになってしまう。

 そんな中、いかに眠っていた善意を掘り起こすかがこれからのビジネスモデルになっていくのではないか。モノが行き渡っている現代社会の中で、何を買うか。AとBがあって、Aに善意が見えていたら、Aを買うでしょう。気恥ずかしく聞こえるかもしれないけど、僕は作家だからあえて言いたい。これからの希望となるものは、人々の善意だと思います。善意は資源なのです。(談)(取材・文:塩塚夢/撮影:宮崎裕士/SANKEI EXPRESS

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