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デマに揺れた昆明駅無差別殺傷事件

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デマに揺れた昆明駅無差別殺傷事件

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中国・昆明駅(雲南省)_無差別殺傷事件の現場状況図=2014年3月1日午後9時ごろ、※現地時間、目撃者の証言などによる  【国際情勢分析】

 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が3月5日、北京の人民大会堂で始まった。大会の冒頭、就任後初の政府活動報告を行った李克強(り・こくきょう)首相(58)は、「3月1日に発生した雲南省昆明駅でのテロ事件を強烈に非難する」と述べた。実はこの下り、事前に配布された“予定稿”には含まれていなかった。習近平(しゅう・きんぺい)指導部に少なからぬ衝撃を与えた全人代開幕直前の凶行は、その全容が未だに明らかになっていない。

 「ウイグル族」以外不明

 3月1日夜、旅行客らでにぎわう昆明駅前で突然、惨劇は起きた。刃物を持った集団が次々に、旅行客らに襲いかかり、これまで29人が死亡、140人以上が負傷した。公安当局はその場で犯行グループの4人を射殺、1人を拘束した。事件発生から2日後には、逃走していた残る容疑者3人も拘束した。

 昆明市当局は「新疆(しんきょう)ウイグル自治区の分裂主義勢力による組織的な暴力テロ事件」と断定。射殺された4人と現場で拘束された1人の顔写真を公表した。中国のインターネット上に掲載された、その中の1枚が大きな波紋を呼んだ。そこに写っていたのは、あどけない表情をした少女。まだ16歳であることが明らかになり、中国国民の驚愕(きょうがく)はさらに膨らんだ。

 ただ、ウイグル族とされる以外、容疑者の素性や犯行の目的、進入経路などは明らかになっていない。昆明市の長水国際空港の国内線安全検査場では、新疆ウイグル自治区とチベット自治区に向かう利用客だけは、他の地域へ向かう旅客と区別され、専用の検査口が設けられていた。列車の切符も記名制になっており、進入経路の追跡は可能と考えられる。

 「他地域でもテロ発生」

 高速道路を利用して車で入ったのか、一度隣国に出国し、そこから国境を越えて入ってきたのか。当局が小出しする情報では事件の全体像がつかめない。事件発生後、昆明市内のウイグル族居住区、大樹営地区のホテルから、忽然(こつぜん)と姿を消したという20~30人のウイグル族宿泊者の行方も気になるところだ。

 中国国内では事件発生後、さまざまな情報が錯綜した。「雲南省の他の地域でも同様のテロ事件が発生した」「テロ分子は広東省広州に逃げた」「いや、貴州省貴陽に逃げた」「福建省アモイ市の空港で容疑者2人が捕まった」…。中には、「事件の負傷者は、病院でまず5万元(約85万円)の前金を支払わなければならない」という“デマ”も広がった。

 昆明市から遠く離れた北京市では、警察関係者の話として、こんな情報が聞こえてきた。「広西省チワン族自治区でもテロ事件が発生したが、警察関係者に箝口(かんこう)令が敷かれている。当局は四川省成都市と重慶市の警備を特に強化している」というものだ。

 混同か隠蔽なのか

 調べてみると、広西省チワン族自治区の観光地、桂林市で3日夕、ドイツ製高級乗用車に乗った女性が刺殺される事件が起きていた。その後、テロ事件への関与が疑われる5人が銃や刃物を持って桂林市に入ったとの通報があったという。結局、四川省黒水県からやってきた5人は、モデルガンなどを売り歩いていたことが判明。桂林市公安局は、事件とは無関係であると発表した。

 「警察関係者の情報」は、この事件をテロ事件と混同したものなのか、それとも本当に隠された事実なのか-。いずれにしても当局が、新たなテロ事件の発生に、神経をとがらせていることは事実だろう。李克強首相は「少数民族と少数民族地区の発展を支援する政策措置を真剣に履行する」と約束したが、懐柔策の陰で、ウイグル族やチベット族に対する監視はさらに強化される可能性がある。

 昆明市では今、多くのタクシー運転手がウイグル族居住区へ行くことを拒むようになっている。漢族のホテル従業員は「よほどの用事がない限り、あの地区には行かない」と話した。当局が全容の公表を控え、「新疆ウイグル自治区の分裂主義勢力による組織的な暴力テロ事件」と強調し続ければ、「ウイグル族=危険分子」という誤った認識が、一般市民の間に定着しかねない。(中国総局 川越一(かわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS

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