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社会
【東日本大震災3年】「生まれてきてくれてありがとう」
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母の下沢悦子さん(左)と、すっかりお姉さんぽくなったさくらちゃん=2014年3月5日、岩手県宮古市(鴨川一也撮影) ≪3・11の子供たち こんなに大きくなりました≫
東日本大震災が起きた2011年3月11日に小さな生を受けた子供たちが3歳の誕生日を迎えた。民間団体の調査によると、被災3県で104人がいるという。元気盛りの子供たちは太陽のように被災地を照らす。「生まれてきてくれてありがとう」。みんなが感謝している。
「足入れて。ここだよ」。雪解けが始まっていた3月上旬。買い物に出かけるため、玄関にしゃがみ、1歳下の妹に靴を履かせようとする岩手県宮古市の下沢さくらちゃん(2)。めっきりお姉さんらしくなってきた。
地震が起こる27分前、海岸から約400メートル離れた市内の産科医院で生まれた。母親の悦子さん(35)が分娩(ぶんべん)室に入ってから8時間の難産だった。
「津波が来る」。看護師に連れられて、母子は2階から3階に移された。津波の被害は免れたが、停電で暖房が止まり、2610グラムの小さな体は紫色に。布団に寝かされた悦子さんの腕とバスタオルにくるまれて一夜を明かした。
翌日、被害のなかった自宅に戻ったが、停電で産湯に入れたのは生後10日目。「寒いときに生まれたからこそ、周りを温かくできる人になってほしい」。優しい感じがする平仮名の名前がつけられた。
おなかにいたさくらちゃんが元気よく動くようになっていた震災3カ月前。「えっちゃんだよね」。自宅に帰るために宮古駅前でバスを待っていた悦子さんに、女性がためらいながら声をかけてきた。
「あなたを産んだ、たえ子です」。生まれたばかりの悦子さんを保育器に残して病院を去った実母だった。心臓が高鳴った。子供がもうすぐ生まれることを伝えると、「女の子だと思うよ」と、おなかを優しくさすってくれた。
「どうして私を置いていったの」。ずっと聞きたかった質問は口にできなかった。その代わり「子供が生まれたら会いにいくね」。約束を交わした。しかし、たえ子さんはその3カ月後、津波にのまれて亡くなった。58歳だった。最初で最後になった再会。悦子さんはショックで母乳が出なくなった。「母がいたらもっといろいろ聞けたのに」。しばしば体調を崩し墓前では涙を流した。
あれから3年。最近になって悦子さんは左頬に、たえ子さんは右頬にできるえくぼが、さくらちゃんには両方にできることに気付いた。「さくらの中に母がいる」。間もなく迎える3回目の母の命日と娘の誕生日。「お母さんに代わって生まれてきてくれてありがとう」。ケーキに3本のロウソクを立ててお祝いするつもりだ。
動き出したら止まらない。狭い部屋を走り回り、カメラを向ければ「ギャハッ」と笑い声を上げる。(西尾美穂子/SANKEI EXPRESS)
宮城県石巻市の仮設住宅に暮らす会社員、永沼博之さん(31)、千尋(ちひろ)さん(30)の次男、珠音(しおん)君(2)。「歌と踊りが大好きで、保育園ではいつも先頭を切って踊っている」。千尋さんは目を細めた。
3年前の3月11日昼すぎ、千尋さんは市内の産院にいた。「もう少しだからがんばって」。分娩(ぶんべん)室のベッドの上で看護師の励ましを受け、渾身(こんしん)の力で踏ん張っていたとき、経験したことのない大きな揺れに気を失いそうになった。停電でおなかの赤ちゃんの心音が確認できない中、吸引分娩に急遽(きゅうきょ)切り替えられ、地震発生から32分後の午後3時18分、3756グラムの大きな男児の産声が響き渡った。
安堵(あんど)の余裕もなかった。「津波が来るぞ」。医師が声を張り上げる中、千尋さんと珠音君は毛布に包まれ、看護師に抱えられながら3階から屋上に向かう踊り場に避難。間もなく産院の1階は濁流にのまれた。
「予定日がたまたま10日ほど早まって産院にいたから助かった。海沿いの自宅にいたら津波にのまれていたかもしれない」
珠音君の祖母、鶴岡弘美さん(52)や兄の蓮翔(れんと)君(8)らも産院にいて無事だった。「珠音に助けられたんですよ」と弘美さんも言う。
しかし、珠音君の誕生を最も楽しみにしていた曽祖父の津田司郎さん=当時(79)=は津波に流された。約2カ月後の5月21日、珠音君が生まれた産院脇のがれきの中から遺体で見つかった。経営する海運会社も近くにあり、どちらかに向かっていたのかもしれない。
生死を分けた3月11日。この2年間は、午前中に司郎さんの法要を行い、夕方に珠音君の誕生日を祝っている。三角形の極太眉毛がますます司郎さんに似てきたという珠音君。太陽のように明るかった司郎さんのような存在になってほしい-。そんな家族の願いと愛情をたっぷり受けて“小さな太陽”はすくすく育っている。(花房壮/SANKEI EXPRESS)
2011年3月11日に岩手、宮城、福島の被災3県で生まれた子供は何人いたのだろうか。北海道内の赤ちゃんに「生まれてくれてありがとう」の思いを込めて椅子を贈る「君の椅子」プロジェクトに自治体として参加している北海道剣淵町、愛別町、東川町が問い合わせたところ、岩手22人、宮城45人、福島37人の計104人の赤ちゃんが生まれていたと回答があったという。(SANKEI EXPRESS)