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中印に接近 「孤立とは言わない」

 ロシアによるウクライナ南部クリミア自治共和国の併合を受け、米欧が制裁による“ロシア包囲網”を狭めつつある。米国が、ウラジーミル・プーチン露大統領(61)の「側近中の側近」とみられる政財界エリートや、関係する金融機関を標的にした影響もじわりと現れてきた。ロシアは自国経済の対外依存を減らす“鎖国化”の兆候を見せるほか、中国やインドなどアジア諸国との連携で国際的孤立を回避する思惑だ。

 欧米の制裁に対抗

 先進7カ国(G7)は3月24日、オランダ・ハーグで核安全保障サミットに合わせて緊急首脳会議を開き、ロシアのクリミア併合を「違法」と非難した上で追加制裁の可能性を警告した。

 米国はすでに、プーチン政権や財界の要人など計31人の在米資産を凍結し、米国への渡航を禁止する措置をとっている。ロシア高官らの資金管理を行っていた民間の「ロシア銀行」(国内17位)も制裁対象とされた。欧州連合(EU)による資産凍結や渡航禁止の制裁対象も33人にのぼる。

 中でも、米国が(3月)20日に発動した制裁が、プーチン氏の旧友とされる政財界の要人を対象とし、プーチン体制下の「縁故資本主義」を狙い撃ちにした効果が注視される。

 ロシア9位の富豪、ゲンナジー・ティムチェンコ氏(61)はプーチン氏がサンクトペテルブルク副市長だった1990年代からの親友。ティムチェンコ氏が制裁発動の直前に売り抜けた石油取引会社、グンボルとプーチン氏の間に資金関係があるとの噂はかねてあった。プーチン氏とともに96年、サンクトペテルブルク郊外の湖畔別荘地に共同出資し、後に大出世した仲間の一部も制裁リストに入った。

 (3月)21日には、ロシア銀行など複数行の顧客が、米クレジットカード大手、ビザとマスターカードによる決済を利用できなくなった。ロシア銀行は米国の制裁リストに載っており、他の数行もロシア銀行の子会社だったり、制裁対象の財界人が保有したりしている。プーチン氏側近に対する制裁がエリート層の離反につながる可能性があるのはもちろん、一般国民への影響もじわじわと見え始めた形だ。

 こうした中、欧米への経済依存を減らそうとの動きが政権内では出ている。プーチン氏は最近の会合で「ロシア企業は国内に登記し、透明な所有構造を持つべきだ」と述べ、企業が納税などを通じてより国に貢献するよう財界人に要請。各種入札での自国企業優遇策を拡大する考えも示した。

 BRICS重視

 産業貿易省は、国の機関による医療分野の輸入品購買を禁じる政令を準備。政権内には独自のカード決済システムをつくり、中国の決済網と連携する構想も浮上している。

 国際的孤立を避ける上で鍵を握るのは、中国とインドをはじめとするアジア諸国だ。プーチン氏はクリミア併合を宣言した(3月)18日の演説で、中国指導部が「歴史的、政治的な背景を考慮している」ことや、インドの「自制と客観的立場」に謝意を表明した。ロシアは、特に中国に対し、欧州に代わる石油・天然ガスの輸出先として熱い視線を注ぐ。

 ロシアでは、「中国だけでも味方につければ、それは『孤立』とは言わない」「中国が投資や技術革新を通じてロシア近代化の原動力になる」といった識者の意見が出ている。

 セルゲイ・ラブロフ露外相(64)は24日の記者会見で「G8がすたれたというなら仕方ない」と述べ、ロシアは20カ国・地域(G20)や新興5カ国(BRICS)を重視していることを裏付けた。

 もっとも、ロシア経済は昨年(2013年)の国内総生産(GDP)が前年比1.3%増にとどまるなど減速が鮮明で、今月(3月)に入ってから代表的株価指標は約1割も下落した。ウクライナ危機による資本流出が3カ月間で500億ドル(約5兆1000億円)にのぼるとの予測もある。クリミア併合で国民多数派の熱狂的な支持を得たプーチン政権が、経済情勢悪化にどこまで持ちこたえられるかは不透明だ。

 中露間ではすでに、ロシアが資源、中国が工業製品を供給する構図が定着しており、過度の中国依存がロシアの“属国化”を強めるとの危惧も一部ではささやかれている。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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