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紙幣に印刷された「反動的メッセージ」
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中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区の政府系ニュースサイト、天山網によると、自治区の区都、ウルムチ市内で最近、「反動的なメッセージ」が印刷された一元紙幣が相次いで見つかった。この手法は、中国政府から非合法と指定されている気功集団「法輪功」が用いてきたものだ。新疆ウイグル自治区ではウイグル族に対する締め付けが強化されているとみられ、不満の高まりに乗じて共産党批判が広まることに、公安当局が神経をとがらせている。
紙幣を見つけた市民は、額面が1元(約17円)と小さかったため、「いつ」「どこで」紙幣を受け取ったのか分からないとしている。サイトの記者が他の市民に聞いたところ、多くの市民が同じような紙幣を見つけたが、すぐに使ってしまったという。
紙幣に印刷されていたメッセージについては、「反動的な言論」としか報じられていない。しかし、中国政府や共産党を批判する内容が書かれていたことは、容易に想像できる。詳細を伏せているのは、メディアを通じて、その内容が拡散することを防ぐための配慮なのだろう。
法輪功の場合、「門徒が真相を伝える。真相が分かれば救われる」といった言葉や、共産党からの退党を促す言葉が書かれていた。流通の速度が速い低額紙幣を使った宣伝は、より広範囲に伝わりやすいとされ、法輪功以外にも発信者がいる可能性も指摘されている。
この種の紙幣はここ2年ぐらい、以前ほどは発見されなくなっていた。ところが、ウルムチ以外にも、3月には浙江省温州市泰順県でも発見されたと報じられている。北京市内でも流通が確認されている。
ウルムチ市内の銀行関係者が天山網に明らかにしたところでは、中国人民銀行(中央銀行)はかなり早い段階で、「反動的メッセージが印刷された“破幣”を見つけた場合、即刻回収し、流通を停止させなければならない」との通知を出しているという。
反動的メッセージが印刷された紙幣は、破れたり、汚れたりした紙幣と同様に扱われ、中国人民銀行残缺(ざんけつ)汚損人民幣兌換規則にしたがって、銀行で交換できる。別の銀行関係者は「すぐに銀行に行って交換するのは、われわれ公民の責任であり、市民自身の利益も損なわれない」と主張している。
中国のインターネット上では、中国全土から発見情報が寄せられているが、その多くは「誰が気に留めるものか」などとメッセージの内容には関心が低い。それにもかかわらず、新疆ウイグル自治区の公安当局は、「反動的メッセージが印刷された紙幣を発見したら、積極的に公安機関に報告するように」と、徹底的に封じ込める構えを見せている。
3月末、黒竜江省の公安当局が、「法輪功」のスローガンを地元政府機関の前で叫んで社会の秩序を乱したなどとして、人権派弁護士ら11人に行政拘留処分を下した。弁護士らは不当に拘束された人々の擁護活動に携わってきたとされる。
昨年(2013年)10月に北京の天安門前で起きた車両突入事件を受け、中国政府は、新疆ウイグル自治区や北京市などでウイグル族200人以上を大量に拘束したと伝えられている。2つの勢力がどこかでつながった場合、当局にとって大きな脅威になりかねない。
当局がウイグル独立勢力の犯行と断定した雲南省・昆明駅での無差別殺傷事件から約1カ月後の4月初旬、中国公安省は、テロ攻撃対策として、全国の警官に3カ月間の訓練プログラムを受けさせると通知した。訓練は、戦闘能力や武器に関する知識を向上させるのが目的とされている。
尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐり、武力行使も辞さない姿勢を示した習近平指導部は、国内においても、武力に頼らなければ治安を維持できない状況に陥っているのかもしれない。(中国総局 川越一(かわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS)