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【取材最前線】柔道ニッポン、ピンチをチャンスに

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【取材最前線】柔道ニッポン、ピンチをチャンスに

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 晴れやかな代表発表の雰囲気ではなかった。4月29日の東京・日本武道館。記者会見場に姿を見せた全日本柔道連盟の斉藤仁(ひとし)強化委員長も、男子の井上康生(こうせい)監督も表情は険しかった。その席上で、8月の世界選手権(ロシア=チェラビンスク)に男子100キロ級の派遣見送りが正式に発表された。“日本のお家芸”と呼ばれる柔道で、男子はすべての階級で五輪、世界選手権に代表選手を送り出してきた。派遣見送りは、史上初の事態だった。

 「100キロ級を決してあきらめたわけではない。どうすれば2016年に金メダルを獲得できるかを考えて、今後の計画を立てたい」。100キロ級で2000年のシドニー五輪金メダルに輝き、世界選手権でも3連覇した井上監督はこう力を込めた。

 男子100キロ級はかつて、日本の“花形”だった。現行の体重区分となった1999年以降に実施された世界選手権は9回。うち、日本は5度制した。99年と2001、03年が井上監督で、05年が現代表コーチの鈴木桂治(けいじ)、そして10年に穴井隆将(たかまさ)が制した。しかし、期待された穴井が12年ロンドン五輪で2回戦で散ると、昨年(2013年)の世界選手権は階級を上げて挑んだ小野卓志(たかし、了徳寺学園職)が5位に食い込むのがやっとだった。この1年の主要国際大会での優勝は誰もなし。4月3日現在、男子7階級の中で唯一、世界ランキング30位以内に誰も入っていない。

 ロンドン五輪で、記者は日本男子が史上初めて一つも金メダルを獲れなかった惨状を目の当たりにした。このとき、先輩記者から言われた。「リオはもっと厳しくなるよ」。4年後のリオデジャネイロ五輪に向け、特に危機的状況にあるのが100キロ級なのだ。

 井上監督は大学年代など20代前半の選手を優先して国際大会で起用するなど、リオを見据えた強化を本格化させるという。「ピンチをチャンスに」ではないが、今回の出来事を再建の好機ととらえるべきだ。仮に、一人の“天才”がいまの時代にいれば、その選手におんぶに抱っこで結果も残せたかもしれない。しかし、それでは選手層の空洞化は免れなかっただろう。強化システムを確立できれば、やがては階級全体のレベルアップが可能になる。2年後に迫った五輪へ、強化陣の手腕に期待したい。(田中充/SANKEI EXPRESS

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