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一見さんも歓迎 名物女将がおもてなし 山とみ
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名物「鉄ピン揚げ」は、自分で衣をつけて鉄瓶で揚げる天ぷら。串に刺した新鮮な魚や肉、野菜など16種類で2880円。自分のペースで揚げたて熱々を
京都五花街の一つ、先斗町(ぽんとちょう)。ひと昔前は「一見さんお断り」のイメージが強かったが、今は気軽に入れる飲食店も増えた。中でも「常連客は旅人のあなた」をキャッチフレーズにしている「山とみ」は、家庭的な雰囲気で京都らしい料理や珍しい酒を供し、リピーターも多い。昨年(2013年)大ヒットしたTVドラマ「半沢直樹」のロケが行われたこともあり、さらににぎわいを見せている。
先斗町とは、三条通りの一筋南から四条通りまで通じる鴨川沿いの南北約500メートルの細長い通りを指す。春が過ぎると川沿いの店が川の上(もしくは川のよく見える位置)に座敷を設け料理を提供する「床(ゆか)」が始まる。京の夏の風物詩の一つ。「山とみ」も5月に入ると床開きをする。
初夏の風を受けながら、名物の「鉄ピン揚げ」をいただく。湯ではなく油の入った南部鉄器の鉄瓶で、四季折々のネタに衣を付けて自分で串を揚げるスタイルだ。
まずは新鮮なエビに衣をつけ、油に投入。うっすら色づいてきたら引き上げて、熱々をはふはふ言いながら食べる。鉄ピン揚げは、肉や魚、野菜の串16種類に、ご飯、赤だし、香の物、デザートがついてボリューム満点だ。
ところで、「鉄瓶」ではなく「鉄ピン」とはこれいかに?
「お客さんが考えてくださったんですよ。ピンッと揚がる、べっぴんのピン…、濁らない方が響きがいいでしょうって」と女将の柴田京子さん(71)。京都市交響楽団やNHK交響楽団などの指揮者を歴任し、当時、常連客だった森正さん(1921~87年)が考案し、看板メニューとして提供するようになったという。自分のペースに合わせて食べられるのがいい。
旬の「はもおとし」や「鮎の塩焼き」もたまらない。京らしい薄味のダシがしっかり染みた「おでん」も人気だ。あれ? メニューに「エレベーター」や「ジェラシー」と意味不明の料理名が…。
「エレベーター」は“アゲオロシ”にひっかけて厚揚げとおろし大根、「ジェラシー」は“ヤキモチ”にかけて焼き餅なのだとか。「初めてのお客さんでも、これで会話がはずむんですよ」
コース料理のほか一品料理も豊富で、しかもリーズナブル。酒の種類も多く「ここに来たら珍しい日本酒を飲めると喜ばれます」。なるほど、山形の「十四代」や山口の「獺祭(だっさい)」など、今ではなかなかお目にかかれない銘柄もそろっている。
「山とみ」はお茶屋さんや置き屋さんが並んでいた先斗町に1964年創業。50年続いたお茶屋から転業し今年2月に50周年を迎えた。「一見さんお断り」は花街文化の一つだが、当初から「どなたでも気軽に入って楽しんでいただける店にしたかった」という。名物女将(おかみ)として知られる柴田さんは、フランスの「ポン・デ・ザール(芸術橋)」を模したデザインの橋を鴨川に架ける計画(97年)が浮上した際、「景観を損ねる」と反対運動を起こした中心人物でもある。計画は撤回された。
5~9月の期間限定の床席のほか、座敷、テーブル席も。実は一番の人気はカウンター席で、柴田さんとの会話を楽しみたくて訪れる客が多いのだ。
カウンターでしっぽりと、もよし、床で「半沢直樹」の半沢(堺雅人)、渡真利(及川光博)、近藤(滝藤賢一)よろしく、酒と料理を楽しみながら熱く語り合うのもよし。「山とみ」はいつでも歓迎してくれる。(文:杉山みどり/撮影:恵守乾/SANKEI EXPRESS)