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素朴なフレンチ 地方料理の神髄 ビストロ・ボンモルソー

 寺町京極商店街から路地を一本入ったところにある「ビストロ・ボンモルソー」。にぎやかな商店街とはうって変わり、緑豊かな木に隠れるようにひっそりとたたずんでいる。扉を開けると、フレンチポップスが流れ、壁には小さな額縁の絵やポスターがずらりと飾られている。古き良きパリの食堂に飛び込んだかのようだ。そんな女性受けする外観や内装とは裏腹に、提供されるのは内臓を主な食材にした料理の数々。私たちがよく知る華々しいフレンチではなく、古くから伝わる素朴な地方料理の神髄を味わった。

 「リヨン地方の伝統料理をメーンに提供していますが、普通なら捨ててしまう部分もおいしく食べる工夫がされている。庶民の知恵がぎゅっと詰まっているんですよ」とシェフの久保正樹さん(43)。

 「最高ランク」 癖のある香り

 それを象徴する料理といえるのが、「自家製アンドゥィエット5A マスタード添え」といえるだろう。アンドゥイエットとは、豚の大腸や胃袋を直腸に詰めたソーセージのこと。

 昨年(2013年)、美食家ジャーナリストたちで作られた団体「真正アンドゥイエット愛好家友好協会」(フランス・パリ市)の最高ランク5Aを獲得したもの。1960年代に団体が立ち上げられて以来、フランス人以外で獲得した人はなく、もちろん、久保さんが日本人で初めてという快挙だ。

 見た目は香ばしく焼き上げられた大きなソーセージといった風体。ナイフでざっくりと切ってみると内臓らしきものが詰まっている。勇気を出してマスタードをたっぷりとつけて一口。カリッ、クニュの食感が楽しい。癖のある香りとマスタードのピリ辛さと相まって、すんなりと胃におさまるが、好き嫌いが分かれる一品かもしれない。

 「この料理は日本で言えば納豆みたいなもの。僕も10年作り続けていますが、おいしいな、と思えるようになったのはここ3年ぐらいですよ」と久保さんは笑う。

 苦く甘い「血のソーセージ」

 また、見かけの黒さに驚かされるソーセージは「ブータンノワール(血のソーセージ)」。湯がいてあるので、血の色が赤から黒になるのだとか。血と聞いて思わず腰が引けたが、さっくりと切れて断面はなめらか。思わず見ほれてしまう。添えられたリンゴジャムと一緒にいただくと、細かな舌触りのレバーのような、苦みに甘さが加わる複雑な味わい。

 「自家製ハム ソーセージ(サボデ) レンズ豆の煮込み」のサボデは、豚の顔の肉を使って作られたソーセージ。たっぷりのレンズ豆が添えられている。「豚は鳴き声以外は全て食べられる、とよく言われるでしょう。血やホルモンもうまく使っているんですよ」と言われて納得。

 丁寧な下ごしらえ

 リヨン地方はフランス東部に位置し、ローヌ川とソーヌ川が合流する流通の要衝で、パリに運ばれる食材の多くがここを通過した。リヨン市は美食の街として花開いたが、庶民の料理は内臓やローヌ川から取れるカワカマスなどの淡水魚がベース。世界大戦の勃発や産業の発展で、男性が重労働に従事していたとき、街の味を支えていたのは「リヨンの母」と呼ばれる女性たちだったという。家庭料理とブルジョア料理を融合させて作り出した素朴で質の高い料理が根付いているという。

 久保シェフによると、日本とフランスとは食材の力強さが違うという。そのギャップを埋めるためにも、丁寧な下ごしらえと下味で、味にパンチを持たせる工夫をしているそうだ。アンドゥイエット5Aを獲得したこともあり、フレンチ愛好家からも熱い視線が注がれるビストロ・ボンモルソー。その味にひかれる人は、地元の京都だけでなく、全国各地からやってくるという。(文:木村郁子/撮影:恵守乾(えもり・かん)/SANKEI EXPRESS

 ■ビストロ・ボンモルソー 京都市中京区寺町通錦小路上ル円福寺前町274、(電)075・212・8851。火曜日・第3水曜日定休。ランチタイムは正午から午後2時、ディナータイムは午後6時から9時(ともにラストオーダー)。ランチは2160円から、夜はアラカルトのみ。予約がベター。

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