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ジレンマと向き合った結果の連作集 「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」著者 仁木稔さん
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SFの旗手、仁木稔(にき・みのる)さん(41)の5年ぶりの新作単行本『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』が刊行された。「亜人」と呼ばれる人工生命体を蹂躙(じゅうりん)することで、人類は「絶対平和」を手に入れる-。1985年から、22世紀まで。数百年にわたる時間軸で暴力の構造をえぐりだす連作中編集だ。
2004年のデビュー以降、舞台を共有する「HISTORIAシリーズ」を書き続けてきた。シリーズの基本設定の一つが、20世紀末から約2世紀間、人類を支配した巨大組織「遺伝子管理局」。その治世は「絶対平和」と呼ばれる。本作もその一つと位置づけられ、「絶対平和」の成立から衰退までの時代を扱っている。
今回収録された最初の物語の舞台は、「妖精(のちの『亜人』)」と呼ばれる人工生命体が労働現場で使役されている01年の米国(と推察される国家)。妖精を嫌悪し排斥運動に加わるケイシーだが、排斥運動にはある謀略が隠されていた-。
「01年は象徴的。日本と同じ先進国で起きた同時多発テロによって、それまで遠い外国、もしくは社会の周縁部にあった『苦しみ』が、自分たちにも起こりうるものとして認識されるようになった。これ以上苦しみから目をそらすことができなくなったのです」
本作の連作としての英語タイトルは、中編の一つでもある〈The Show Must Go On〉。イラクの刑務所で囚人をいたぶる金髪碧眼の美少女(「はじまりと終わりの世界樹」)、「亜人」による代理戦争をエンターテインメントとして楽しむ人類(「The Show Must Go On」ほか2編)…。連作の全てが「他者の苦しみ」というショウの物語だからだ。
「(今年3月に明らかになった)震災ドキュメンタリー映画のやらせ問題のように、私たちは他人の苦しみを娯楽として消費してしまいかねない。自分自身、かつてあるアニメ作品のノベライズを手がけたとき、少年兵が登場するエピソードをどう描くか悩んだ。かっこいいもの、かわいそうなもの…つまり、見世物としては描きたくなかった。でも、小説はエンターテインメントであるべきだと思っている。そのジレンマと向き合った結果がこの連作集なのです」
最後の中編のタイトルは「...’STORY’ Never Ends!」。前の作品と続けて読むと「The Show Must Go On,and ’STORY’ Never End!」だ。「ストーリーの語源はHistory(歴史)。歴史は事実の積み重ねで本来は意味はないものだけれど、人はそこに意味を見いだして、物語として読んでしまう」
精緻に構築された「歴史」。「描かれた世界がユートピアか、ディストピアか。読んだ人自身に考えてもらえれば」(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」(仁木稔著/早川書房、1836円)