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しょせん男はサンドイッチのパン 「女系の総督」著者 藤田宜永さん
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知れば知るほど摩訶不思議な女たち。「かしましいんだけど、やっぱりいとおしい」と語る、作家の藤田宜永(よしなが)さん=2014年6月11日、東京都中央区(大山実撮影)
我輩は男である-。作家、藤田宜永(よしなが)さんの新刊『女系の総督』はこんな一文から始まる。女系一家のただ一人の男として一家をまとめあげていく「総督」の物語。家族、仕事、恋、健康…人生の全てを詰め込んだ直木賞作家の集大成だ。
出版社に勤める59歳の森川崇徳(むねのり)は、姉と妹に挟まれて育ち、結婚してできた子供も3姉妹。おまけに飼っている2匹の猫もどちらもメスというまさに女系一家の家長だ。妻は十数年前に亡くなった。熱帯雨林のごとく熱気をまき散らす女たち。自分は「植民地の熱帯雨林を監視管理する『総督』」だと人に言われたが、黙ってほほ笑むしかない-。
「この作品のヒントを与えてくれたのは、カミさん(作家の小池真理子さん)です。カミさんはふたり姉妹の長女。よく妹と電話でけんかをしているんですが、3日後にはケロッとまた長電話をしている。振り子の揺れがすごく大きい。男にとってはよく分からない。そんな女性に囲まれている男の話を書こうと」
女性の話に反論はせず、ただただ耳を傾ける。究極の「受け身力」を駆使し、女系一家をしっかりとまとめあげていく崇徳。「女性は吐き出す力が強くて、一気に話してくる。それに対して男は客観的に見てしまうから、自分も若い頃は『それはこうだよ』とついつい言って怒らせてしまっていた。60歳を過ぎて、だいぶ対応できるようになったかな…」
60年の経験を重ねてたどり着いた「対応法」とは。「『これが食べたい』って女性が言っても、レストランの予約は前日まで取らない。気が変わる可能性が高いから。若い頃は、いちいち腹を立てていたけど、今は『あ、今日はその気分なのね』と受け入れられますね。家庭だけじゃなく、会社でも管理職になると部下が女性ばかりといった状況に置かれることも。そんな人にも、役に立つ本になったと思います」
ある日、姉の昌子が夫ではない男とホテルから出てくるのを目撃してしまう。まさか、不倫…? それを皮切りに、疎遠だった長女の恋愛問題や、末娘の夫婦仲など、一気に女難が押し寄せてくる。さらに崇徳も娘たちには絶対に言えない秘密を抱えていて…。
「もし、崇徳の奥さんが生きていたら、こんな話にはならなかったでしょうね。だって、女の子はみんな母親のところにいっちゃうから。俺のカミさんの実家だってそうですよ。俺はお義父さんと話したいのに、『パパ、そろそろ寝たら』なんて父親が疎外されちゃう」
自身初の家族小説だが、「家族ものを書こうというつもりは全くなかった。(1974年に放送されたテレビドラマの)『寺内貫太郎一家』も見たことがなかったぐらいだもん。男と女の物語を広げていったら、こうなった。だって、家族も基本は男と女でしょう」
かつてのホームドラマの父親がちゃぶ台をひっくり返すような「剛」なら、崇徳は「柔」。「確かに今までの父親像とは違いますね。崇徳は、たとえるなら交差路で交通整理をする、犬のお巡りさん。40年前は怒って手を出すような父親もほほ笑ましく受け取られたかもしれないけれど、今の時代に合うのは、崇徳のような父親像なのかな」
いつまでたっても理解できない女性という存在。けれど、そんな彼女たちを見つめるまなざしは限りなくやさしい。「いい意味で諦めてるのかも(笑)。うるさいし、かしましいんだけど、やっぱりいとおしいですね」
独自の表現で、女性の存在をこう例える。「男同士でいてもラクなんだけど、しょせん男はサンドイッチでいう『パン』。中に具がないとパサパサしていて味気ない。オレはタマゴサンド、僕はハムサンド、とそれぞれ好みも違って広がりが出る」
軽い語り口の中にも人生の哀歓が詰め込まれた本作。「ハードボイルド、恋愛、ミステリー…。いろんなものを書いてきたからこそ、書くことができた作品。今までの作品からいろんなエッセンスを取り入れている。集大成だと思っています」。笑って、泣いて。久しぶりに実家に帰りたくなる作品だ。(文:塩塚夢/撮影:大山実/SANKEI EXPRESS)
「女系の総督」(藤田宜永著/講談社、1750円+税)