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息子とは誰しもマザコンである 舞台「母に欲す」作・演出 三浦大輔さんインタビュー
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稽古場に組まれた裕一のアパートのセットにて、「さっき起きたところなんです」と話した演出家の三浦大輔さん=2014年6月24日(津川綾子撮影) 右の写真の散らかった部屋は、舞台「母に欲(ほっ)す」の稽古場セットだ。男が一人で暮らすワンルームアパート。片付けてくれる母親を待つような、甘えん坊丸出しの部屋だ。
「母に欲す」は、男子にとっての母親とは、がテーマ。作・演出の三浦大輔(38)は、突然母を亡くした兄弟が母性を渇望するさまを描きながら、身近で深い母・息子関係や母性の本質を捉えようとしている。
「母親は無償の愛を注いでくれる、最後まで依存できる存在。息子は母に『してあげられなかったこと』を悔やんだりするけれど、母にとっては、結局息子がいろいろと求めて、わがままを言うことが幸せなんじゃないでしょうか」と、「欲す」と題した理由を語った。
郷里の母の仕送りを風俗に使い、自堕落に東京で暮らす35歳の裕一(峯田和伸)はある日、友人から「おまえの母さん死んだぞ」と聞かされる。実家に帰るも葬儀に間に合わず、母を看取った弟、隆司(池松壮亮)になじられる。だが、四十九日が過ぎたころ、父(田口トモロヲ)が新しい母(片岡礼子)を連れてくる。喪失感に打ちのめされた兄弟は、新しい母とどう関係を結ぶのか-。
「新しい母を受け入れようとする過程で、兄弟は死んだ母には求められなかったものを新しい母に求め始めます。それがちょっとした性的な欲求だったり、恋愛的な感情と形が似ている」。ともすれば近親相姦的な際どさを感じるが「全く違う」ときっぱり。「例えば、エロ本が見つかると怒るのが前の母なら、新しい母にはその歯止めが必要なくなった状態」だという。
息子の甘えを全容し、「けなげでどこかもの悲しい、そんな女性」という新しい母親の造形は、そのまま三浦の母性像といえる。女性から見れば、母の実像からやや美化されている印象もあるが、「多くの男性の母親に対する思いはこんなもんかな、と思います。息子は誰しもマザコンの部分がありますから」。
裏風俗に集う男女を描いた「愛の渦」(2005年)など、人が隠したがる本性をむき出しにした舞台を見せてきた三浦だが、「人間のちょっとした情けないところ、人に見られたくないところをほじくり出して、それで人を引きつけるというような露悪的作風はあふれ過ぎて、飽き飽きした」という。
だから今回、「ベタな感情を、あまり気の利いたことや、すごい展開もせず、淡々と、あえてテレビドラマ的に見せようと思います。渡る世間は鬼ばかり、みたいな」。これは三浦にとって、新たな試み。実家の舞台セットは和室に仏壇があり、まさに「渡鬼」的なしつらえ。そこにただよう空気感を、早く共有してみたい。(津川綾子/SANKEI EXPRESS)