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社会
【Q&A】刑事司法改革 可視化2~3% 通信傍受と司法取引盛る
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法制審議会の特別部会が最終改革案を了承したのを受け会見する村木厚子・厚生労働事務次官(左)と映画監督の周防正行(すお・まさゆき)さん(中央)=2014年7月9日、東京都千代田区・司法記者クラブ(宮川浩和撮影) 事件の捜査や裁判手続きの見直しを議論していた法制審議会の特別部会が、法改正のたたき台となる最終改革案を全会一致で了承しました。
Q 法制審議会とはどのようなものですか
A 法務大臣の依頼で、法律を作ったり改正したりすることについて検討する組織です。通常は臨時に設置された部会で原案をまとめます。
Q なぜ見直しが必要になったのですか
A 厚生労働省の局長だった村木厚子事務次官が逮捕され、無罪となった文書偽造事件で強引な取り調べが問題になりました。これを機に、密室で作られる供述調書に頼った捜査や裁判の仕組みを変えるべきだとの声が強まったためです。
Q 部会の構成は
A 警察・検察幹部のほか、裁判官や弁護士、学者、村木次官らです。
Q 何が決められたのですか
A 警察や検察が容疑者を取り調べる際、その様子を最初から最後までDVDに録音・録画することが義務付けられます。これを「取り調べの可視化」と言います。
Q 反対意見は
A 警察や検察は、容疑者が本当のことを話さなくなる恐れがあるとして義務付けの対象を限定するよう求め、村木次官らは全事件で実施しないと不適切な取り調べをチェックできず、冤罪(えんざい)が防げないと主張しました。
Q 結論はどうなりましたか
A 市民が審理に加わる裁判員裁判の対象事件(殺人、放火など)と特捜部などが扱う検察の独自事件に限定されました。合わせても起訴される事件の2~3%です。
Q 他にはどのようなテーマがありましたか
A 警察や検察は可視化で供述を得にくくなる代わりに、証拠を集めるための新しい捜査手法を導入するよう求め、認められました。
一つは、電話や電子メールを通信傍受(盗聴)できる対象に、組織性が疑われる詐欺や窃盗など9類型の犯罪が追加されます。もう一つは司法取引で、共犯者など他人の犯罪の解明に協力する見返りに起訴されないなどの利益を受けることが可能になります。これは経済事件や銃器・薬物事件に限定されています。
Q 問題はないの
A 通信傍受は憲法が保障する通信の秘密やプライバシーを侵害し「監視社会」につながる恐れがあります。司法取引では、自分の罪を逃れるため捜査機関に嘘の説明をし、無実の人が巻き込まれるかもしれません。
Q 問題があるのに了承されたのはなぜ
A 最終案に反対意見を持つ委員も可視化の義務付けを評価し、今回の法改正を抜本改革に向けた「第一歩」と位置付けたためです。法務省は来年の通常国会に刑事訴訟法や刑法などの改正案を提出する方針です。
≪村木氏、可視化対象の拡大求める≫
厚生労働省の村木厚子事務次官は、最終改革案了承後の記者会見で「宿題はたくさん残った」と語り、将来的に可視化の対象を拡大するよう求めた。
村木氏は部会で最終改革案に賛成。会見では「裁判員裁判対象事件や検察の独自事件という“花形”で全過程が可視化される意義は大きい。大事な一歩になる」と一定の評価を示した。
全事件での可視化という理想とは懸け離れた決着となったが、改正法施行後の見直しで対象拡大の余地があると強調し「関係者が努力し続けるしかない」と語気を強めた。また賛成した経緯について「自分の逮捕から5年が過ぎた。これだけ熱心に議論しても時間がかかる。それならできるだけ早く(法改正に)踏み切っていただきたいと思った」と説明した。
映画監督の周防正行(すお・まさゆき)委員は「最終案はがっかりする内容だが、大きな改革の第一歩になるということでのみ込んだ」と語り、「運用次第では(制度改正は)何の値打ちもなくなる。法曹界だけでなく、市民がどれだけチェックしていくかにかかっている」と訴えた。(SANKEI EXPRESS)