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経済
【RE-DESIGN ニッポン】城陽の金銀糸
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金銀などを蒸着して加工したフィルムを糸状に裁断する「スリット」作業=2014年6月17日(提供写真) 京都府の南山城地域に位置する城陽。「青谷の梅酒」でも有名な梅の名産地でもあるこの地は、京都を代表する文化産業の「西陣織」を支える重要な素材、「金銀糸」を生み出してきた。今も全国の生産量の80%を南山城地域で、そして城陽で50%が生産されている。「RE-DESIGN ニッポン」の第4回は、金銀糸の発展と衰退、そして再び輝きをはなとうとしているこの素材を取り上げる。
金銀糸は古くから高級衣服に用いられてきたが、城陽での生産は江戸時代に始まった。第2回で取り上げた「引箔」は、金箔や銀箔を漆で和紙に貼り付け、それを細く裁断したものであり、「平糸」とも呼ばれる金銀糸の一種である。この「箔」を芯となる絹糸などに巻きつけて撚りをかけ、強化した糸が「撚金糸」であり、現在城陽で作られている金銀糸の主力となっている。この金銀糸は、和装を中心に、織物や刺繍などに用いられてきた。
城陽がこの金銀糸の産地として選ばれた理由は、城陽の立地、特に豊富な地下水の影響が大きい。漆は硬化するために、70~85%の湿度が必要で、地下水がもたらす適度な湿気は、金銀糸製造に欠かせない漆の硬化に適していた。また、京都中心部では加工が追いつかず、地理的に近い城陽地域の下級武士の内職として発展、定着した。こうした製造上の必要性と市場との近接性が産地形成に影響したのである。
市場である京都の需要に効率的に応えるため、他の産地と同じく、城陽でも金銀糸は分業で生産されるようになった。漆紙作り、箔押し、着色、裁断、撚り、蒸し、仕上げといった各工程で新たな技法が編み出された。例えば、泉工業は染色薬品に浸けても金銀が取れない技術を世界で初めて編み出し、爆発的な需要を生み出した。このようにして、伝統の技法をベースに技術革新を続け、和装を中心とした需要の拡大に応えていった。
現在、和装の市場が大きく縮小したことで、城陽の金銀糸産地も大きな打撃を受けている。伝統産業によくみられることだが、分業が進んで各工程の製造に特化した結果、市場の変化に迅速に対応できていないのだ。
そこで次代を危惧した伝統工芸士らが中心になり、さらに各工程の若手経営者らも加わって「燦彩糸プロジェクト」を立ち上げ、直接消費者に金銀糸のすばらしさを伝えようと取り組んでいる。その事例の一つがアクセサリーデザイナー、西紗苗さんとのコラボレーションだ。西さんは「私のアクセサリーを気に入ってくれた人に、その中に城陽で受け継がれてきたすばらしい技術や伝統が込められていることを伝えることで、何かを大切に思う気持ちが生まれ、伝統が受け継がれるきっかけになってほしい」と話す。歴史に裏打ちされた素材を生かした西さんのアクセサリーは海外でも注目され、金銀糸は新たな生命を得はじめた。
泉工業の福永じゅんさんは「小規模の各工程の担い手がチームを組み、柔軟に要望に対応できることが強み。今後『燦彩糸』ブランドでさまざまな用途に応えていきたい」と語る。和装の歴史とともに成熟した金銀糸という高品質な素材は、職人たちのチームワークに支えられ、洋装はもちろん、インテリア、建築など新たな用途にも可能性を広げながら、再び輝く道を探っている。(COS KYOTO代表 北林功/SANKEI EXPRESS)