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【広島土砂崩れ】「雨量1ミリ」 頼りすぎた民間予想 「避難勧告なぜ遅れた」

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【広島土砂崩れ】「雨量1ミリ」 頼りすぎた民間予想 「避難勧告なぜ遅れた」

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週末になり安佐南区緑井には多くのボランティアが参加し、土砂の撤去作業を手伝った=2014年8月30日午後、広島県広島市安佐南区緑井(宮崎裕士撮影)  死者72人、行方不明者2人を出した広島市の土砂災害で、発生当日に市の避難勧告が遅れたと指摘されている問題で、現場に雨が降り始めた以降に、気象会社が広島市に対し「(現地の)1時間雨量は1ミリ以下」とする情報を提供していたことが8月30日、市への取材で分かった。降雨予想は(8月)20日午前1時50分に提供されたが、実際の午前2時以降の降雨量は広島市安佐南区(あさみなみく)で80~87ミリ、安佐北区(あさきたく)で92~115ミリを記録していた。

 予想と実際の降雨量が大きく乖離(かいり)しており、気象情報会社によるピンポイント降雨予想の不確実さと、その予想に依拠した自治体の危機管理の危うさが明らかになった形だ。

 市によると、午前1時50分に気象情報会社から市に伝えられた降雨量の見通しは、「午前2時以降4時までの1時間雨量は1ミリ以下」だった。前日の(8月)19日午後10時にも、同じ見通しが伝えられていた。

 広島市は避難勧告を出す際、(1)大雨特別警報(2)避難基準雨量の超過(3)土砂災害警戒情報の発表(4)(消防の)巡視によって危険と判明(5)土砂災害緊急情報の通知-のいずれかに該当した場合に、その後の降雨量の見通しを考慮して避難勧告を出すことにしている。

 市は降雨量の詳細な見通しを、この気象情報会社から得ていた。今回の災害では、5項目のうち土砂災害警戒情報が(8月)20日午前1時15分に発表されたため、避難勧告の検討を始めたという。

 実際に被害が出ていた20日未明、安佐北区では午前3時までの1時間に92ミリの雨が降っていたが、予想は「1ミリ」。午前4時までの1時間でも115ミリの雨が降ったのに対し、予想は「1ミリ未満」だった。

 安佐南区でも午前3時までの1時間に87ミリが降っていたが、降雨予想は「1ミリ」。午前4時までの1時間でも実際は80ミリのところ予想は「1ミリ未満」となっていた。

 安佐南区と安佐北区では、住民から20日午前2時すぎに浸水被害の119番通報が入り始め、午前3時21分には「安佐南区山本で11歳と2歳の男の子が生き埋め」との119番通報が入るなど、これらの時間帯にはすでに甚大な被害が発生していたとみられる。

 広島市に情報を提供していた気象情報会社は産経新聞の取材に対し、守秘義務があるとして「一切お答えできない」としている。

 ≪避難生活長期化 心身不調の訴えも≫

 広島市の土砂災害では、発生から10日が経過した8月30日も住民約1100人が避難生活を強いられた。長期化は避けられず、心身の不調を訴えるケースも出てきた。専門家は「支援の正念場はこれから」と指摘する。

 「ずっと雷の音が聞こえるようになった。ほら、今も鳴っとらん?」。広島市安佐南区(あさみなみく)の市立梅林小。校舎の階段に座り込んだ60代女性が、炊き出しの豚汁を手に、おびえた様子を見せた。空には稲光はおろか、雨雲さえも見当たらない。

 市は発生直後から安佐南、安佐北(あさきた)両区の小学校や公民館に避難所を設置。全国各地からの支援もあり、当面の食料や生活用品は確保されてきた。医師らの巡回のほか、東日本大震災をきっかけに発足した災害派遣精神医療チーム(DPAT)も初めて活動に乗り出した。

 一方で、土砂の撤去が進まない地区も多く、避難生活の長期化は必至だ。高齢者の中には、足の静脈に血栓ができている事例も判明。エコノミークラス症候群の兆候とされ、放っておくと呼吸困難や脳梗塞につながる恐れがある。

 市の担当課は水分の摂取や適度な運動を呼び掛け、保健師が避難所を巡回。「不眠の訴えが増えてきた」(女性保健師)。家族や日常生活を奪われ、環境が激変した影響は確実に現れつつある。

 「時間の経過につれ、精神状態が悪くなることも多い」。こう指摘するのは、NPO法人「仙台グリーフケア研究会」(仙台市)代表の滑川明男医師(52)。災害に襲われたばかりの混沌とした「急性期」が過ぎると、次第に悲しみが湧いてくるケースがあるという。

 仙台グリーフケア研究会は東日本大震災の遺族同士が語り合う催しを続けているが、なぜ家族や友人らを助けてあげられなかったのかという思いに長い間さいなまれることも少なくない。滑川医師は「悲しみを簡単に和らげる薬はない。心のケアは、むしろこれからの時期に大事になってくるのではないか」と話した。

 「休日だけ参加もどかしい」

 30日、被害が大きかった安佐南、安佐北の両区には大勢のボランティアが集まり、泥のかき出しなどに参加した。作業終了後は、両区にある受け入れ窓口のボランティアセンターに戻るバスを待つ長い列ができた。

 安佐南区の八木地区では蒸し暑い中、狭い道が埋まるほどのボランティアの姿。住宅の床下から泥をかき出していた広島市南区の公務員、菊田勇平さん(42)は「なかなか進まない。休日しか参加できないのでもどかしい」と汗をぬぐった。(SANKEI EXPRESS

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