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帰郷めど立たず 「心が折れそう」 あす震災から3年半

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帰郷めど立たず 「心が折れそう」 あす震災から3年半

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福島県田村市都路町では、除染作業で出た廃棄物の袋が道路脇に山積みになっていた=2014年9月8日(宮崎裕士撮影)  東日本大震災から11日で3年半を迎える。東京電力福島第1原発事故で避難生活を強いられている周辺の住民は約13万人に上る。進まぬ除染作業に帰還のめどは見えず、住民らは「選択」を迫られている。

 進まぬ除染作業

 福島県大熊町小入野(こいりの)地区の自宅は、同居する義母(88)が植えた色とりどりの花に囲まれ、家族の笑い声が絶えなかった。周囲には先祖から受け継いだ田畑や山林があり、ずっと守り続けてきた墓もあった。

 ここに、除染で出た廃棄物を保管する中間貯蔵施設ができる。悔しさ、悲しみ…。会津若松市の仮設住宅に身を寄せる根本充春(みつはる)さん(74)は、思い出が詰まる故郷が廃棄物で埋め尽くされるのを思い浮かべ、さまざまな感情を抱く。

 ただ、県が8月末に表明した施設の受け入れは、冷静に受け止めた。自宅は屋根の一部が抜け落ち、雨水にさらされて無残な姿に。とても、帰れる状況にはないからだ。8月3日に一時帰宅した際に放射線量を計測すると、毎時18マイクロシーベルト。今も国が避難指示解除の最低条件とする年間20ミリシーベルト(毎時3.8マイクロシーベルト)を大幅に上回っている。

 小入野地区の43戸すべてが中間貯蔵施設の建設予定地内にある。「みんな口に出さないまでも、帰れないことは分かっていた。もっと早く答えを出してほしかった」。根本さんは深いため息をつく。

 地権者として、国から施設建設の合意を求められれば受けようと考えている。完全に納得できたわけではないが、「もどかしい生活が終わるスタートに、ようやく立てる」

 一緒に暮らしていた長男(46)は帰還への思いを断ち切り、ひと足先に「帰らない」選択をした。福島県いわき市に土地を購入して、自宅を建てた。根本さんも、長男宅の近くに居を構える考えだ。

 「落ち着いた先で死にたいという義母の願いをかなえたい」。自らに言い聞かせるようにうなずいた。

 仮設に残る高齢者

 浪江町の住民が避難を続ける二本松市の安達運動場仮設住宅で今月6日、震度5強の揺れが襲ったとの想定で避難訓練が行われた。スピーカーで自治会関係者が避難を呼びかけると、住民が次々と集会場近くの空きスペースに姿を見せた。

 目立つのは年老いた人たちだ。この仮設住宅には当初530人超が暮らしていたが、今では約300人に減った。ただ、空き家は最大約245戸のうち20軒ほどと目立たない。若い世帯が引っ越し、高齢者の独居が増えたからだという。

 一家全員で暮らしていた高齢者が、故郷に帰る望みをつなぎたいと1人で残ったケースが少なくない。60代の女性は「一丸だったように見えた家族も結局、場所が変われば人も変わる。老いたのに、子に従えない」と肩を落とした。

 環境省によると、浪江町の除染完了率(宅地)はわずか3%。震災から3年半を迎えても、帰還のめどは立たない。この仮設住宅の自治会長を3月まで務めた本田昇さん(62)も、もどかしい日々を過ごす。

 震災前の2010年末に妻(57)の実家がある浪江町に越してきた。高齢の義母(87)のため、バリアフリーの自宅を実家近くに建てた矢先に、震災に襲われた。津波で新居は跡形もなくなり、近くに住む親類も全員失った。

 「海の真ん前で、のんびり第二の人生を歩もうとしていたところだった。こんなはずじゃなかった…」

 本田さんを何より苦しめたのが、浪江に足を踏み入れることさえままならない現実だった。親類も満足に供養できない。妻は、風が親類らの泣き声に聞こえると涙したこともあった。

 町は17年の住民帰還開始という目標を掲げるが、除染がほぼ手つかずの状態に不安は募る。それでも帰りたい。「いいかげん、帰れるめどだけでも示してくれないと、心が折れてしまう」

 商業施設や学校ない

 帰還できたとしても不安は尽きない。川内村は10月1日から村民の約1割に当たる139世帯の避難指示が解除される。だが、8月17日の住民説明会で先延ばしを求める声が相次いだ。

 村は林業が盛んだが、農地に対し山林は除染の対象外。帰還を選択する毛戸(もうど)地区の林業、大和田亥三郎(いさぶろう)さん(79)は「山の仕事はできない」と漏らす。

 放射能への心配が尽きない上、村には病院や大型商業施設、高校もない。周囲の町で同じように帰還が進み、環境が整備されなければ生活がままならない。

 避難指示解除で1年後に賠償金が打ち切られることに不安を抱く人も多い。

 福島第1原発事故に伴う避難者は9日現在で12万7377人。一向に見通せない未来に、それぞれが悩み続けている。(SANKEI EXPRESS

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