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「疾病の脅威」ようやく動いた国際社会

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「疾病の脅威」ようやく動いた国際社会

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8月8日、スイス・ジュネーブでエボラ出血熱感染について記者会見する世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長=2014年(ロイター)  【国際情勢分析】

 「世界がようやく西アフリカでのエボラ出血熱の壊滅的な蔓延に対する強力な闘いを行うために結集しつつある」

 9月18日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、アジア版)は「無防備なアメリカにエボラ出血熱の警告」とする専門家の論評を掲載した。米国が16日、エボラ出血熱の封じ込めに向け、米軍関係者約3000人を派遣する方針を明らかにしたことを受けての論評だ。

 バラク・オバマ米大統領(53)はエボラ熱対策を「米国の国家安全保障上の優先事項だ」として、拡大を阻止しなければ国際社会に「深刻な影響」を及ぼすとの認識を示し対策に本格的に取り組む姿勢を表明。国連も18日、感染封じ込めに向け「国連エボラ緊急対応支援団(UNMEER)」を設立し、国連の全機関を動員すると発表した。

 エボラ熱対策は安保問題

 国連安全保障理事会も18日、流行地域の孤立を防ぐため、渡航制限を撤廃するよう各国に求めることなどからなる決議を採択した。武力紛争やテロなど平和への脅威を討議する安保理で、公衆衛生に関する決議の採択は異例という。

 こうした流れは、エボラ出血熱の感染拡大の深刻さに国際社会がようやく危機感を持った証拠だろう。世界保健機関(WHO)によると、昨年12月に最初の感染者とみられるギニアの2歳男児が死亡してから、疑い例を含む感染者はこれまでに5500人を超え、うち2600人以上が死亡した。1976年にエボラ出血熱が確認されて以来、感染症の集団発生としては過去最悪の規模にまで事態は深刻化している。

 「エボラ出血熱の対策強化は遅いが、歓迎」とする9月16日付米紙ワシントン・ポスト(ウェブ版)社説は、封じ込めに乗り出した米政権の政策転換を「対策が十分かはわからないが、米国は少なくとも、世界でなくてはならない国のように動き始めた」として評価した。同時に「安全保障上の脅威は邪悪な国家や集団だけでなく、動物を由来とする感染症にもある」として、「エボラ出血熱への対応が遅れたことについて再発を繰り返さないように深刻に反省すべきだ」と警鐘を鳴らす。

 いまだ把握できない規模

 国際社会は過去、数多の感染症を経験し封じ込めてきた。それなのに、なぜエボラ出血熱の感染拡大に歯止めがかからないのか。

 冒頭のWSJの論評は、致死的な疾病への対応は早期発見と脅威規模の正確な把握が重要だが、今回は集団発生の本当の規模をいまだに把握できていないことを問題視する。また、生物兵器テロや珍しい疾病用の新薬開発への金銭的なインセンティブがないことをあげる。さらに、薬や医療機材、人材の不足をあげ、「WHOの対応の失敗が新たに示すのは、この組織は救援機関というよりも政治的な政策決定機関ということだ」と批判する。

 ただ、こうした不足点は、エボラ出血熱への対応に限らず、今後、いつ発生するかわからない不測の事態に国際社会が備えておく必要があるといえる。

 感染者50万人の可能性も

 一方で、エボラ出血熱の感染拡大は、長年のリベリア内戦による混乱を経て、成長への道筋をゆっくり歩み始めた西アフリカの経済成長に打撃を与えそうだ。

 9月17日付英紙フィナンシャル・タイムズ(ウェブ版)によると、国際通貨基金(IMF)は最近、最悪のシナリオを発表した。それによると、感染がシエラレオネの今年の成長率を11.3%から8%に、リベリアの成長率を5.9%から2.5%に、ギニアの成長率を3.5%から2.4%にそれぞれ押し下げるとの予測した。3カ国は農業や鉱物資源などで経済成長を続けてきたが、農民が村を離れ、人の移動や物の往来が制限されていることで開発や投資への影響が想定される。今後の食糧危機も考えられるだろう。

 20日の米メディアによると、米疾病対策センター(CDC)は、来年1月末に感染者が50万人を超える可能性があると試算した。エボラ出血熱の流行阻止に向け、各国が的確に対策に取り組まない最悪の場合との条件ではあるが、荒唐無稽な数字とはいえない。

 18日の国連安保理の決議には、共同提案国に史上最多の約130カ国が名を連ねたが、提案国は責任を持ってスピーディーに行動するべきだ。CDCの試算が現実となるのを回避するために。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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